N.Y.ジャズ見聞録 

美しいメロディと、柔軟なグルーヴが交錯するサウンド・パラダイス

アイアート・モレイラ・スペシャル・ユニット
フィーチャリング・トニーニョ・オルタ

Airto Moreira with Toninho Horta @ Dizzy's Club Coca Cola


アイアート・モレイラ (ds, per, vo)

トニーニョ・オルタ (vo, g)

 ニューヨーク・ジャズの一大拠点、ジャズ・アット・リンカーン・センターのホール群の中で、唯一毎日ライヴを発信しているのはジャズ・クラブ&南部料理レストランである、ディジース・クラブ・コカ・コーラである。ここに7月の第3週に登場したブラジルの至宝、アイアート・モレイラ(ds,per,vo)とトニーニョ・オルタ(vo,g)の2人に、ニューヨークのケニー・ワーナー(p,kb)、マーク・イーガン(el-b)が加わったスペシャル・ユニットのギグをお伝えしよう。

 セントラル・パークの南西のコロンバス・サークルにある、ニューヨーク最新のトレンド・スポット、タイム・ワーナー・プラザ内にジャズ・アット・リンカーン・センターは、2004年10月に3つの専用ホールをオープンした。その中で最も小規模ながら食事とドリンクでリラックスした雰囲気でハイ・クォリティな演奏を楽しめるのが、ディジース・クラブ・コカ・コーラだ。火曜から日曜まで毎日2セット(ウィークエンドは3セット)に、若手が登場するアフター・アワー・セットに、月曜日のショウ・ケースという、往年のニューヨークのジャズ・クラブのブッキング・スタイルを遵守しているクラブである。ステージの背景には、マンハッタンのビル群と、セントラル・パークの眺望が拡がり、夏期のファーストセットは、黄昏時から夜景に至る絶妙のパノラマが拡がる。


ケニー・ワーナー(p, kb)


アイアート・モレイラ (ds, per, vo)


トニーニョ・オルタ (vo, g)

 この夜、ニューヨークのグレイト・ビューとハーモニーを奏でるアーティストは、アイアート・モレイラとトニーニョ・オルタの双頭グループだ。アイアートの夫人のフローラ・プリム(vo)も参加の予定であったが、家族に不幸があり、惜しくもステージには現れなかった。2008年はボサノヴァ誕生50周年にあたり、ニューヨークでも数々の企画コンサートが催かれているが、その中でも、この日は強い印象を残してくれたライヴだった。アイアートは、68年の渡米以降、マイルス・デイヴィス(tp)・グループ、リターン・トゥ・フォーエヴァー、ウェザー・リポートと70年代を代表するグループで活躍、現代アメリカの音楽に多大な影響を与えたドラマー、パーカッショニストだ。フローラ・プリムとのユニットでも、70年代から長く活動している。この巨匠とかっぶり四つに組むのが、ブラジル音楽界きってのコンテンポラリー・ギタリスト、トニーニョ・オルタだ。音楽の宝庫のミナス・ジェラス州出身、ミルトン・ナシメント(vo,g)や、マリア・ベターニャ(vo)のグループで頭角を顕し、1980年代から90年代初頭にかけてのパット・メセニー(g)の音楽に大きな影響を与えた。マーク・イーガン(el-b)、ケニー・ワーナー(p,kb)はトニーニョのアルバムでも共演していて、そのオリジナリティの強い音楽を深く理解している同志だ。


マーク・イーガン(el-b)

 まずはシャッフル・リズムのブルースでウォーミング・アップ、アイアートがスキャットで歌いオープニングを飾った。続いてはトニーニョのオリジナルのスロー・ボッサ"Bons Amigos"。そのソフトなヴォイスが、薄暮の淡い光と共に客席に滲み渡った。フローラの不在を、トニーニョは繊細なヴォイスとギターで埋め、自らのカラーでグループを染めた。またもトニーニョのオリジナルだ。アイアートがサンバビスタの本領を発揮する。この日は主にドラム・セットを中心に叩いている。60年代のブラジルではドラマーとしての活動が長かったが、渡米後、華麗なパーカッション・ワークを聴かせてくれるようになったアイアートだが、パーカッショニストならではの、より俯瞰的視点で、リズムとサウンドを埋めていくドラミングは絶妙である。エモーショナルなトニーニョのソロにたいして、ワーナーは理知的なアドリブでコントラストを描く。寄り添うイーガンのリズムとのアンサンブルは、フレキシブルなブラジリアン・ビートと、タイトなアメリカ人のビートの狭間が、このグループならではの独自のうねるグルーヴを生み出している。

 ステージでは、アイアート&トニーニョのオリジナル、ミルトン・ナシメント(vo,g)のカヴァーと、美しいメロディを誇るブラジリアン・ナンバーが咲き誇る。トニーニョは、エレクトリック、ガット、アコースティックと曲調に合わせてギターを持ち替え、アイアートはカウベルでシンコペーションを強調、また繊細なシンバル・レガートを聴かせてくれる。トニーニョは、ギターとヴォイスだけのソロ・パフォーマンスでも、一人オーケストラとも言うべき音世界を創りあげる。それは一人の人間の感動に慄える感情や思考の流れが、音となってとめどもなく溢れだすような圧倒的な演奏だ。アイアートのリズム・ワーク、ワーナーのアメリカン・ジャズに深く根ざしたコード・ワーク、イーガンによるボトムの強化のコラボレーションで、トニーニョ・ワールドに、様々な要素が加わることによってブースターがかかり、さらなる壮大な拡がりを獲得したといえよう。次回は是非、フローラ・プリムが加わるとどのような化学反応が起きるかを、見届けたい。

(7/23/2008)


ドラムセット


メタル・クラッシャー(左下)、ラトル(真中上)、
ピート・エンゲルハート(真中下)、スプリング・ドラム(右上)


シード・シェル

 

関連リンク


ウッド・ブロック(左上)、カウベル(左下)、
カシシ(真中上)、スラップ・スティック(カシシの右隣)


チャイナ・ドラ(左)とカウベル(右)

Airto Moreira
http://www.airto.com/

Toninho Horta
http://www.myspace.com/toninhohorta

Jazz at Lincoln Center
http://www.jalc.org/