N.Y.ジャズ見聞録 

2009 NEA Jazz Masters Awards
Ceremony & Concert

@ Rose Theater, Jazz at Lincoln Center, NYC



24人のジャズ・マスターズ

ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラに祝福された、
6人の新たなジャズ・マスターズ

 アメリカが誇るオリジナルの音楽アート・フォームであるジャズは、その誕生から100年あまりが過ぎ、多くのイノヴェーター達によって、発展を遂げてきた。1950年代後半ぐらいから、ジャズも野球と並ぶ、アメリカを代表する独自の文化として捉えられるようになり、大学レベルでの教育機関も各地に設立され始めた。 1982年から、NEA(National Endowment for the Arts 国立芸術基金)がNEA Jazz Masters Awardsを制定し、2008年度までには100人のマスターズが顕彰されてきた。そして2009年度には、新たに6人が加わる。その授与式、記念コンサートの模様をリポートしたい。


NEA代表のダナ・ギオイアの開会宣言で、
熱い夜は始まった。


パネル・ディスカッション


ジャズ・アット・リンカーン・センターの
アーティスト・ディレクターを務める
ウィントン・マーサリス(tp)

 ディジー・ガレスビー(tp)、ロイ・エルドリッジ(tp)、サン・ラ(p,band leader)の3人が選出されて始まったNEAジャズ・マスター賞だが、2004年にはパフォーマーだけでなく、評論、プロモーター、エンジニアらにも授与され、またヨーロッパ出身のダン・モーゲンスターン(元ダウンビート誌編集長)や、日本人の穐吉敏子(p,arr)ら、アメリカ以外の地域の出身者も顕彰され、規模が拡大してきた。今までは、秋に次年度受賞者の発表があり、翌年1月のIAJE(国際ジャズ教育者会議)年次総会の3日目にパネル・ディスカッション、フォト・セッションそして夜には、メイン・ホールで盛大なセレモニー&記念コンサートというのが定例だった。2009年度は、IAJEの倒産により1月の年次総会がキャンセルされたために、ジャズ・アット・リンカーン・センターと提携して、その旗艦ホールである、ローズ・シアターで、ウィントン・マーサリス(tp)率いるジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラのサポートで、よりグレード・アップして開催された。


リー・コニッツ(as)

Dr. トゥーツ・シールマンス(左、hca,g)と Dr. ビリー・テイラー(p)

 2009年度は、ジョージ・ベンソン(g,vo)、ジミー・コブ(ds)、リー・コニッツ(as)、Dr. トゥーツ・シールマンス(hca,g)、スヌーキー・ヤング(tp)らがパフォーマー/教育者枠に、技術者枠で、録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーと6人のジャズ・マスターが誕生した。
 セレモニーはまず、歴代ジャズ・マスターの入場で始まる。物故者とも含めると100人のジャズ・マスターの中で18人が出席し、万雷の拍手と共に登場する。ロイ・ヘインズ(ds)、ランディ・ウェストン(p)、バリー・ハリス(p)らが、矍鑠とした笑顔で、聴衆に応えていた。さらにヴォルテージがあがり、新ジャズ・マスターズの入場だ。着席と共に、鉄壁のアンサンブルを誇るジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラのファンファーレ、NEA代表のダナ・ギオイアと、数十年後には確実にジャズ・マスターに選出されるであろうウィントン・マーサリスによって、2009年度のNEAジャズ・マスターズ・アワーズ・セレモニー&コンサートの開会が宣言された。


2009 NEA Jazz Masters Award Ceremony & Concert


"Un Poco Loco"
Jazz at Lincoln Center Orchestra

NEA Jazz Masters Procession
Welcome from NEA Chairman Dana Gioia and Wynton Marsalis

George Benson
Award presenter : NEA Jazz Master Tom McIntosh

James"Jimmy" Cobb
Award Presenter : NEA Jazz Master Roy Haynes

"Stella by Starlight" with George Benson
Jazz at Lincoln Center Orchestra

"Can You Read My Mind" with Jimmy Cobb Quartet

Lee Konitz
Award presenter : NEA Jazz Master Phil Woods

Jean-Baptiste " Toots" Thielmans
Award presenter : NEA Jazz Master Dr. Billy Taylor

"What a Wonderful World" With Toots Thielmans

"Body and Soul" with Lee Konitz
Jazz at Lincoln Center Orchestra

Rudy Van Gelder
Award presenter : A.B. Spellman

Edward Eugene "Snooky" Young
Award Presenter : NEA Jazz Master Franl Wess and Gerald Wilson

"Stolen Moments" for Rudy Van Gelder

"Lil Darlin" with Tom McIntosh and Candido Camero
Jazz at Lincoln Center Orchestra




ジョージ・ベンソン(g,vo)

 1949年当時、時代を20年は先取りしていたマイルスの奇跡のアルバム「クールの誕生」にも参加し、そのソフトなトーンで、ストレート・アヘッドからアヴァンギャルドと広い守備範囲を誇ったリー・コニッツ(as)や、ジャズのみならず、「ブルーセット」、「セサミ・ストリートのテーマ」の作曲者としても広く知られら、ヨーロッパ出身では2人目のジャズ・マスター、Dr. トウーツ・シールマンス(hca,g)も円熟のパフォーマンスを聴かせてくれた。  レコーディング・エンジニアで初受賞となったルディ・ヴァン・ゲルダーは、現在もニュージャージー州イングルウッド・クリフスの自宅スタジオで、精力的に録音を続けている。そのスタジオは、ブルーノートの諸名作、コルトレーンのインパルス盤、CTI など数々の名盤が生み出されたジャズの聖地である。自らが40年、50年前にアナログで録音した諸作のデジタル・リマスターCD制作により、ジャズ・レコーディング・サウンドのスタンダードを創りあげた、ヴァン・ゲルダーの業績が再評価されての受賞と思われる。  トリを飾ったのは、今回のジャズ・マスターズの中でも最長老で1919年に生まれた、スヌーキー・ヤング(tp)だ。ビッグバンド全盛の40年代から活動を開始し、テレビ全盛時代には30年にわたって、人気番組「トゥナイト・ショウ」のハウス・オーケストラのメンバーを務めた。ビッグバンド黄金時代からの盟友ジェラルド・ウィルソン(tp.arr)とフランク・ウェス(ts,fl)によって、記念盾が手渡された。

 会場が暗くなり、ジョージ・ベンソン(g,vo)のヴィデオが流れた。ウェス・モンゴメリー(g)の後継者としてキャリアをスタートし、70年代からはスムース・ジャズ・ギタリスト、R&Bシンガーとしても輝かしい実績を積んでいるマルチ・アーティストとして紹介された。トム・マッキントッシュ(tb)によるスピーチ、記念盾の授与、そして返礼のベンソンのスピーチでは、自分を音楽の道へ誘ってくれた継父への感謝を述べる。ここまでは例年通りの進行だが、今年はさらに大きなボーナスがあった。ジョージ・ベンソンとジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラの夢の競演である。黄金色のイヴァニーズ・ジョージ・ベンソン・モデルを携えて、「ステラ・バイ・スターライト」でスウィングした。
 ダイナ・ワシントン(vo)やサラ・ヴォーン(vo,p)らシンガーのサポート、今年で制作50周年を迎えるジャス史上最高のベスト・セラー・アルバム、マイルス・デイヴィス(tp)の「カインド・オブ・ブルー」の唯一の生存するレコーディング・メンバー、そしてウェス・モンゴメリー(g)との活躍と、名バイ・プレイヤーとして存在感を放ってきたジミー・コブ(ds)も、衰えを知らないその繊細なドラム・ワークを披露する。


 ジミー・コブ(ds)



オリンピックのメダリストのように、ハモニカにキスをするDr.トゥーツ


リー・コニッツ(中央、as)


レコーディング・エンジニアで初受賞となったルディ・ヴァン・ゲルダー


左からジェラルド・ウィルソン(tp)、スヌーキー・ヤング(tp)、フランク・ウェス(ts, fl)


 

 2010年度もまた新たなジャズ・マスターが誕生する。ジャズ・ミュージックの伝統と、その素晴らしさは、世代を超えて受け継がれてゆく。

(2008年10月17日
於 Rose Theater, Frederik P. Rose Hall, Home of Jazz at Lincoln Center)



関連ウェッブサイト

NEA Jazz Masters Awards
http://www.nea.gov/national/jazz/

Jazz at Lincoln Center
http://www.jalc.org/


オーケストラでも最若手のダン・ニマー(p)らにも、
ヴェテランとの貴重な共演となる。