N.Y.ジャズ見聞録  

    

カナダに響いた、ハートウォームなメロディ
Sadao Watanabe Group

in Montreal International Jazz Festival 2009

 

 今年のニューヨークは、大規模なジャズ・フェスティヴァルが不況のあおりでキャンセルされ、例年にない寂しい夏となってしまった。そのニューヨークから 飛行機で2時間、カナダ、モントリオールでは、30周年を迎えたモントリオール・ジャズ・フェスティヴァルが、盛大に催されていた。その2週間近くにわたるフェスティヴァルの3日目、渡辺貞夫グループが登場した。その模様をリポートしたい。


  モントリオール・ジャズ・フェスティヴァルは、6/30にスティーヴィー・ワンダー(vo,kb)が登場し、マイケル・ジャクソン(vo)にトリビュート を捧げたキック・オフ・コンサートから7/12まで、ジャズ、ロック、ポップス、R&Bとカテゴリーを問わず3,000人のミュージシャンが全世界から集まり、およそ20万人のオーディエンスを前に熱演を繰り広げる、世界でも有数のビッグ・イベントだった。会期中は、モントリオールのリンカーン・ センターともいうべきPlace-des Artsの3つホールを中心に、7つの野外ステージ、7つのクラブ、ライブ・スペースで、パフォーマンスが進行する。フリー・コンサートや、究極の大道芸サーカス、シルク・ド・ソレイユの本拠地のモントリオールならではの大道芸人たちのショウ、子供向けのイヴェントも多い。7月上旬のモントリオールのダウンタウンは、音楽とエンタテインメントが溢れている。 


 7/2 の中ホールのTheatre Jean-Duceppeに、渡辺貞夫は出演した。今年2009年は、日本とカナダの修好80周年にあたり、様々な文化交流イヴェントが、両国で開催されている。渡辺貞夫は、日本を代表するジャズ・アーティストとして、招聘された。モントリオールで演奏するのは2度目だが、ジャズ・フェスティヴァルに参加するのは初めてと語る渡辺。ホテルの部屋でも、夜遅くまで聞こえる喧噪に、驚かされたそうだ。
  ステージは、横に広い変わったスタイルで、音場感をつかむまで手間取ったそうだが、2曲、3曲とぐいぐいと調子を上げてきた。昨年,渡辺は、長年の宿願 だった、日本でのレギュラー・グループでの西海岸、東海岸をまわるアメリカ・ツアーを果たした。その一年後には、同グループでのモントリオール、トロント をまわるカナダ・ツアーと、2年続けての北米大陸での演奏だ。


ンジャンセ・ニャン(perc)、則竹裕之(dr)


養父貴(gr)、コモブチ・キイチロウ(el-b)


 グループは、最も在籍の長い小野塚晃(p,kb)がハーモニー、アレンジをリードし、セネガル出身のパーカッショニスト、ンジャンセ・ニャンが、リズムの核を作り強力にグルーヴを推進する。昨年のアメリカ・ツアー直前に参加したコモブチ・キイチロウ(el-b)も、すっかりグループに溶け込み、新加入の養父貴のギター・カッティングとのコンビネーションも、絶妙だ。同じく新メンバーで、T-スクエア絶頂期を支え、Jフュージョン・シーンに欠くことの出来ないドラマー則竹裕之も、ニャンとの激しいバトルを聴かせてくれた。
  彼ら日本を代表するミュージシャンたちを従えて、渡辺のアルト・サックスが、フルート、ソプラニーノが、朗々とヒューマンな調べを奏でる。アンコールは、 80年代のヒット曲、「オレンジ・エクスプレス」。そして、小野塚とのデュオでジョビン・ナンバーの「Por Toda a Minha Vida 」。美しいメロディの余韻が、ステージに残った。


小野塚晃(p,kb)

ンジャンセ・ニャン(perc)

則竹裕之(dr)

養父貴(gr)


コモブチ・キイチロウ(el-b)


 終了後、バック・ステージに渡辺を訪ねた。7/5のトロントのステージは、さらに調子が上がってくるだろう、同じく出演するケニー・ギャレット(as) との久々の再会も楽しみと話していた。モントリオール入りの10日ほど前に、ニューヨークで行ったレコーディング・セッションに触れると、堰を切ったように熱く語りはじめる。昨年秋に、ブルーノート東京に渡辺貞夫・ウィズ・ニューヨーク・フレンズとして招いた若手ドラマー、ジョナサン・ブレイクに惚れ込んだ渡辺は、彼にプロデュースを依頼した。ブレイクは、日頃共演している20代の若手の注目株、ジェラルド・クレイトン(p)と、ベン・ウィリアムス(b) を起用した。シンプルなピアノ・トリオをバックに、レコーディングは2日間の一発録音という、昔のジャズの熱気が甦ったようなセッションだったそうだ。この日披露された「Not Quite Samba」も、ニュー・アルバムの書き下ろし曲で、違うテイストで演奏されている。リチャード・ボナ(el-b,vo,etc)と制作した「ホイール・ オブ・ライフ」以来、6年ぶりのスタジオ録音アルバムは、ニューヨークの若手とともに、今の渡辺貞夫を存分に発揮する、自信作となった。9月にはアルバム・リリースとともに、ブルーノート東京でレコーディング・メンバーとのギグもある。また新たな渡辺貞夫の姿に、もうすぐ会える。

(2009年7月2日、 於 Théãtre Jean-Duceppe, Montreal QC Canada)

SET LIST

AFROZIL
TEMBEA
SEE WHAT HAPPENS
BAGAMOYO〜SANGOMA
ALALAKE〜LOPIN
EARLY SPRING
CALL ME
BUTTERFLY
NOT QUITE SAMBA
RENDEZVOUS

ENCORE:
KARIBU〜ORANGE EXPRESS
Por Toda a Minha Vida

Festival International de Jazz de Montreal
http://www.montrealjazzfest.com/

 

 

渡辺貞夫 http://www.sadao.com/