N.Y.ジャズ見聞録  

Kurt Rosenwinkel Trio & Monvinic Experience
42 Festival Internacional De Jazz De Barcelona

トリオでNY Jazz の最先端を、ソロでスペイン・ワインを描いたカート・ローゼンウィンケル

  

 NYジャズ見聞録とタイトルしながら、前回、前々回のセント・ルイスのJENなど、ニューヨーク以外からの、リポートが続いている。今回も、ニューヨークをあとにして、秋深まるスペインの、バルセロナ・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルを訪れた。この長い伝統を誇るジャズ・フェスティヴァルに登場した、カート・ローゼンウィンケル(g)の”スタンダード”・トリオと、ワイン試飲イヴェントのソロ・ギター・コンサートをお伝えしよう。

 

 1966年に始まったバルセロナ・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルは、政治混乱期の中断はあるものの、今年で42回を数え、過去にデューク・エリントン(p)、ルイ・アームストロング(tp,vo)からマイルス・デイヴィス(tp)、エラ・フィッツジェラルド(vo)らが出演し、その長い歴史を彩ってきた。通常のジャズ・フェスティヴァルは、週末などの数日間に、多くのコンサートが同時に進行するのだが、ここでは10月の初旬から、12月初頭にかけて、一日に1〜2本のイヴェントが淡々と進行し、バルセロナの日常の中に、さりげなくジャズの息吹が感じられるようになるフェスティヴァルで、大御所から、ワールド・ミュージック、尖鋭的アーティストまで多彩なランナップを誇っている。カート・ローゼンウィンケル(g)も、ニューヨークの最先端のサウンドを当地に、もたらした。

 


カート・ローゼンウィンケル(g)

 11月14日にローゼンウィンケルが出演したのは、バルセロナのトレンド・スポットのクラブ、"Luz de Gas"。アール・デコ調の内装が、ゴージャスだ。ニュー・アルバムの「アワー・シークレット・ワールド」は、ポルトガルのビッグバンドとの競演と、意欲作をリリースしているローゼンウィンケルだが、今回は昨年リリースしたスタンダード曲集「リフレクション」からのセレクションを、ギター・トリオでじっくり聴かせてくれた。サイドを固めるのは、ブランフォード・マルサリス(ts)・クァルテットの不動のメンバー、エリック・レヴィス(b)と、レコーディング・メンバーのエリック・ハーランド(ds)に替わって、ニューヨークのシーンでめきめきと頭角を顕しているテッド・プア(ds)だ。


エリック・レヴィス(b)


テッド・プア(ds)

 異端のピアニスト、ジャッキー・バイアードの、"Mrs. Parker's of KC"で、セットはスタートした。ビバップ調のアップテンポの同曲のあとは、モンクの”Rflection”、スタンダードの"Invitation"と、メロウなナンバーが続き、ローゼンウィンケルのストーリー性溢れる、内省的な音世界へと誘われた。会場を埋め尽くした、バルセロナの若いギタリスト達の視線は、ローゼンウィンケルの手元に釘付けだ。  この夜のセット・メニューでは、モンク・チューンが、最も多く採り上げられた。エキセントリックに美しいモンクの世界を、ローゼンウィンケルは、独特のハーモニー・センスと、イコライザー、ペダル・ワークで再構築し、唯一無二のサウンドをクリエイトした。クールなギターのメロディ・ラインを、レヴィスとプアがプッシュし、静かなせめぎ合いを聴かせる。ジョン・ルイス(p)の”マイルストーン”では、スウィンギーな側面も聴かせ、トラディショナルなジャズ・ギタリストとしての矜持を、誇示する。アンコールに応えた、"Rudy My Dear"は、耽美的な余韻をステージに残して、ギグの終わりを告げた。

 翌日、最高級ワイン・バー”モンヴィニック”の店内の一角に、カート・ローゼンウィンケルは、そのフル・ギアをセッティングしていた。"Kurt Rosenwinkel Monvinic Experience"と、題されたイヴェント。ワイン醸造家たちが、自信作のワインを持ち寄り、それらを観客とローゼウィンケルが試飲し、ワインのイメージを、ソロ・ギターで綴るという、スペシャル・ライヴが始まろうとしていた。  まず醸造家が、自らのワインを語り、全員で試飲する。そしてローゼンウィンケルのギター演奏が始まる。スムースなホワイト・ワインでは、リバーヴの効いたソフトで耽美的なメロディ・ラインを、フル・ボディのレッド・ワインでは、エフェクトが深くかかった、ワイルドなプレイを聴かせてくれた。5種類のワインが饗されたが、最後にサーヴされたシェリーのイメージを、シンプルなブルースで描いたプレイは秀逸であった。ソロ・ギターで、100%のインプロヴィゼーションというシチュエーションは、ローゼンウィンケル・ミュージックの真髄を、垣間見ることが出来たと言えよう。


Set List

Mrs. Parker's of KC
Reflections
Invitation
Down that Dream
Ugry Beauty
Milestone (John Lewis)
Rudy My Dear

 2010年の、バルセロナ・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルも、例年の如く、ソニー・ロリンズ(ts)、チック・コリア(p)、デヴィッド・サンボーン(as)ら現代ジャズのレジェンド達が、出演した。カート・ローゼンウィンケルも、彼ら巨星に囲まれながら、強固な存在感を示していた。さらなる、進化が期待される。


関連ウェブサイト

Festival Internacional De Jazz De Barcelona
http://www.barcelonajazzfestival.com/

Kurt Rosenwinkel
http://www.kurtrosenwinkel.com/

 

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