N.Y.ジャズ見聞録 

2011 NEA Jazz Masters Awards
Ceremony & Concert


31名のジャズ・マスターズ

ジャズ・アット・リンカーン・センターの大観衆に包まれて、
4人と1ファミリーのジャズ・マスターズが誕生

 久しぶりのニューヨークからのリポートをお届けしよう。ニューヨークのジャズ・シーンの年頭を飾る行事として、定着しつつあるNEA(National Endowment for the Arts 国立芸術基金)ジャズ・マスターズの授賞式と記念コンサートが、今年も1月11日に、ジャズ・アット・リンカーン・センターのメイン・ホールのフレデリック・P・ローズ・シアターで、開催された。新たに選出された4人と1ファミリーのジャズ・マスターズ、その横顔と記念演奏の模様をお伝えしよう。

 1982年に始まったジャズ・マスターズの顕彰は、現在まで119人が選出されている。2008年までは、IAJE(国際ジャズ教育者協会)の年頭の年次総会のメイン・イヴェントの一つとして、開催されていたが、2009年秋から、ジャズ・アットリンカーン・センターに舞台を移し、2010年度からは、従来通り1月に催されるようになった。ウィントン・マルサリス(tp)率いるジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラがホスト・バンドを務め、ゴージャスなサウンドで、ジャズ・マスター達の記念演奏をサポートしている。


新ジャズ・マスターズ

 2011年度は、すべての存命のジャズ・マスターズに招集がかかる、リユニオン年であり、セレモニーの1時間前の、ジャズ・アット・リンカーン・センターのスタジオには、巨星達が集まった。フィル・ウッズ(as)、穐吉敏子(p)から、ジェラルド・ウィルソン(tp)、ジミー・ヒース(ts)ら長老格まで、31名のマスターズが、ずらりと並んだ記念写真は、なかなか壮観だ。そして本年度の授賞者だけの撮影も、行われる。新ジャズ・マスターズは、フュージョン時代を鮮やかに彩ったフルート・プレイヤー、ヒューバート・ローズ、パフォーマー、教育者双方で高い評価を受けているデイヴ・リーブマン(ss,ts,fl)、映画音楽作曲家としても著名な、ジョニー・マンデル(tp,tb)、制作者枠が、リヴァーサイド・レコードを中心に数々のレーベルで名盤をプロデュースしてきたオリン・キープニュース、そして異例ながら、エリス・マルサリス(p)を筆頭にした、ブランフォード(ts,ss)、ウィントン(tp)、デルフィーヨ(tb)、ジェイソン(ds)のマルサリス・ファミリーが、顕彰された。

デイヴ・リーブマン(ss,ts,fl)

ジョニー・マンデル(tp,tb)

オリン・キープニュース


ウィントン・マルサリス(tp)


ブランフォード・マルサリス(ts,ss)


ジェイソン・マルサリス(ds)

エリス・マルサリス(p)
 スタジオではジャズ・マスターズ達が旧交を温めているうちに、会場のローズ・シアターの扉は開かれ、席は埋まり始めた。オーケストラ・ボックスの前列には、歴代ジャズ・マスターズと、その家族が着席する。出席しているジャズ・マスターズが受賞年と共にコールされ、拍手に包まれた。
 NEAの代表のロッコ・ランドスマンのスピーチを皮切りに2時間を越すセレモニーが始まった。まずは、オリン・キープニュースのキャリアを振り返るショート・ヴィデオが上映さる。そして50年代からキープニュースのプロデュースのレコーディングに多く参加している、ジミー・ヒース(ts)が登場し、キープニュースとのエピソードを語る。本人が登場し、記念スピーチをすると言う進行だ。キープニュースの場合、ミュージシャンではないので、ヒット・アルバム「ポートレート・イン・ジャズ」や「ワルツ・フォー・デビー」のプロデュースで縁が深かったビル・エヴァンス(p)のオリジナル”Re : Person I Knew"が、ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラによって、演奏された。


デイヴ・リーブマン(ss)


ロッコ・ランドスマン

 


ヒューバート・ローズ(fl)とケニー・バロン(p)

 ヒューバート・ローズの記念演奏は、2010年度のジャズ・マスターズのケニー・バロン(p)との珠玉のデュエットの「ステラ・バイ・スターライト」.デイヴ・リーブマンは、若き日にそのグループで薫陶を受けた、マイルス・デイヴィス(tp)に敬意と感謝を表して、マイルス・デイヴィス&ギル・エヴァンス(p,kb,arr)・ヴァージョンの「ポギーとベス」から数曲を、チューバ、ホルンを入れた、拡大版オーケストラで演奏し、この日のベスト・パフォーマンスを聴かせてくれた。

 1965年のアカデミー賞の映画歌曲賞を受賞している「いそしぎ」の作曲者、ジョニー・マンデルは、ウィントン・マルサリス(tp)をフィーチャーして、同曲でオーケストラのタクトを振った。
 ここでセレモニーは祝福ムードから、厳粛な空気へと変わる。2010年に他界した4人のジャズ・マスターズ、ハンク・ジョーンズ(p)、アビー・リンカーン(vo)、ジェイムス・ムーディ(ts,fl,vo)、ドクター・ビリー・テイラー(p)の肖像がスクリーンに投影され、ジミー・ヒース(ts)とロバータ・ガンバリーニ(vo)をフィーチャーしたビッグバンドで、ジョーンズとリンカーンの共作”Angele Face"が捧げられた。


ジミー・ヒース(ts)とロバータ・ガンバリーニ(vo)


エリス・マルサリス

 そして、いよいよ2011年度最後に登場するジャズ・マスターズは、マルサリス・ファミリー。スクリーンには、ハリー・コニックJrが登場し、エリス・マルサリスから受けた影響を語り、エリス・マルサリス(p)がスピーチをした。ニューオリンズで長年ジャズ教育に携わり、その門下は息子達のみならず、前出のハリー・コニックJr、テレンス・ブランチャード(tp)、ドナルド・ハリソン(as)と、ニューオリンズ派とも言うべき派閥をなしている。エリス・マルサリスのジャズ界への長年にわたる多大な貢献には、全く異論はない。50歳のブランフォード、49歳のウィントンは、ピューリツアー賞やグラミー賞受賞など、多くの栄誉に輝いてはいるが、まだこれからも大きな業績を残していく途上にあると思える。デルフィーヨやジェイソンは、優秀なミュージシャンではあるが、ジャズ・マスターズに相応しい貢献度があるかは疑問符が残る。演奏は、マルサリス・ファミリーのセッションだ。ジャズ界に栄華を誇る、マルサリス・ダイナシティ(王朝)を讃えるような終幕であった。

2011年2月20日
於 Rose Theater, Frederik P. Rose Hall, Home of Jazz at Lincoln Center


関連ウェッブサイト

NEA Jazz Masters Awards
http://www.nea.gov/national/jazz/

Jazz at Lincoln Center
http://www.jalc.org/