第32回
モントリオール
インターナショナル
ジャズ
フェスティヴァル


北国に夏の到来を告げる、世界最大規模の音楽イヴェント

 今年も、北米最大、世界でも有数の規模を誇る総合音楽イヴェント、モントリオール・インターナショナル・ジャズ・フェスティヴァルを、取材するチャンスに恵まれた。北国カナダに夏の訪れを告げる10日間の前半5日を、お伝えしよう。

 
ニューオリンズを拠点にジャンルを超えて活動しているバンド “ギャラクティック”

 1980年に始まり、経済状況の影響を受けながらも、着実に巨大化してきたイヴェント、モントリオール・ジャズ・フェスティヴァル。今年も、期間中に200万人を越える観衆を集め、大盛況だった。モントリオールのダウンタウンに位置するパフォーミング・アーツの中心、プラスデザールの3つのホール、フリーコンサートが開催される5つの野外ステージを中心に、20のステージ/クラブが稼働し、1001のコンサートが開催される。参加アーティストだけでも世界各国から3,000人を越える、ジャズの発祥国アメリカでも、匹敵するフェスティヴァルは見いだせない。 メイン・スポンサーは、トロント・ドミニオン銀行(TD Bank)と、鉄鋼業のリオ・ティント・アルコンを筆頭として、多くの地元企業が務める。野外コンサート・ホールには、それぞれ冠スポンサーがついている。またカナダ政府、ケベック州政府、モントリオール市も後援する、まさに官民一体となった一大文化イヴェントである。 

 

 6月25日のオープニングを飾ったのはダイアン・リーヴス(vo)、アンジェリーク・キジョー(vo)、リズ・ライト(vo)ら現代の3人のディーヴァが集結し、その名も”Sing the Truth!"と銘打たれた、コンサートだった。音楽のみならず、公民権運動でも尖鋭的な活動家だった、アビー・リンカーン(vo)、オデッタ(vo)、ママ・アフリカの異名をとった南アフリカ出身のミリアム・マケバ(vo)の3人に捧げたパフォーマンスは、現代のエラ・フィッツジェラルド(vo)と言えるダイアン、ディープ・サウスのゴスペルの申し子、リズ、アフリカ・ベニン出身のアンジェリークのダンスも飛び出し、エンターテインメント満載。テリ・リン・キャリントン(ds)がミュージック・ディレクターを務め、ナイス・サポート。初日の夜から、最高潮に達した。


ダイアン・リーヴス(vo)

アンジェリーク・キジョー(vo)



リズ・ライト(vo)



“Sing the Truth!”

 

 2日目の26日は、今回の取材のメイン・イヴェント、チック・コリア(p,kb)率いるリターン・トゥ・フォーエヴァー(RTF)Wが、メイン・ホールのサル・ウイルフリッド・ペルティエに登場した。70年代に、3回に渡ってモデル・チェンジを繰り返し、当時のフュージョン・シーンを席巻した、コリアとスタンリー・クラーク(el-b,b)の双頭プロジェクトだが、ジャン・リュック・ポンティ(vln)と、フランク・ギャンバレ(g)を新メンバーに迎え、第4期RTFとして再始動した。コンサートに先がけて、クラークの長年の業績を讃えて、フェスティヴァルからマイルス・デイヴィス賞が、授与された。かつてのヒット曲も、現在のテクノロジーと、新アレンジメントでリニューアルされ、そのタイトなアンサンブルはさらに進化していた。秋には、日本ツアーが敢行される。


チック・コリア(p,kb)


スタンリー・クラーク(el-b,b)



マイルス・デイヴィス賞が授与されたクラーク


←リターン・トゥ・フォーエヴァー(RTF)W

 


 フェスティヴァルは、午後も盛り上がっている。プラスデザールのキャンパス内では、姉妹都市のニューオリンズ・スタイルのデキシーランド・ジャズ・バンドの行進や、様々なストリート・ミュージシャン、北米唯一のサーカス学校トユの協力で、ピエロや、宙吊り芸などが繰り広げられている。子供のための、フェイス・ペイントや、パーカッション講座、遊戯スペースも充実している。いたるところに、フェスティヴァルのマスコット・キャラクターの猫が、ちりばめられ、和ませてくれる。Tシャツなどのノベルティ・グッズも、さすがフランス文化圏というセンスの良さを誇っている。例年はテントで開催されていた、ギャラリー・ショウも、今年はプラスデザール内に展示されている。トニー・ベネット(vo)の描いたルイ・アームストロング(tp,vo)のポートレートや、マイルス・デイヴィス(tp)のドローウィング、歴代のフェスティヴァルを飾ったデザイン画が、音楽と絵画の融合を魅せる。昼間は、ローカルのアマチュア・グループが出演する野外ステージも、夜になると著名アーティストが登場する。ニューオリンズからは、強烈なセカンドライン・ファンクを聴かせるギャラクティックがやってきた。フリー・コンサートに集まった,聴衆をファンキーに染め上げた。


トニー・ベネット(vo)の描いたルイ・アームストロング(tp,vo)のポートレート


マイルス・デイヴィス(tp)のドローウィング

いたるところに、フェスティヴァルのマスコット・キャラクターがお目見えしてる会場

 

 今年2月のグラミー賞で、錚々たるポップス勢を抑えて、ジャズ・アーティストでは初めて最優秀新人賞に輝いた、エスペランサ・スポルディング(b,vo)もメンバー・チェンジしたニュー・グループで、新曲も披露した。ジャズとタップのアンサンブルという野心的なプロジェクトは、ジェリ・アレン(p)だ。モーリス・チェストナット(tap)との激しいグルーヴの応酬は、圧巻だ。イギリス出身の大ヴェテラン・ベーシストのデイヴ・ホランドは、3日間に渡って出演。ケニー・バロン(p)とのスタンダード・ナイト、クリス・ポッター(ts)、ロビン・ユーバンクス(tb)、スティーヴ・ネルソ(vib)と、中堅、ヴェテランをフロントに据え円熟した、自己のクィンテットでのオリジナル・ナイトと、その多面的な音楽性を、じっくりと味あわせてくれる。コマーシャル・ミュージックから、実験的な音楽まで、多彩な音楽が交錯する夢のような10日間。今から、また次のシーズンが待ち遠しい。


エスペランサ・スポルディング(b,vo)


←ジェリ・アレン(p)とモーリス・チェストナット(tap)のアンサンブル


ケニー・バロン(p)

デイヴ・ホランド(b)


ケニー・バロン(p)とのスタンダード・ナイト、クリス・ポッター(ts)、ロビン・ユーバンクス(tb)、スティーヴ・ネルソ(vib)

 

Festival International de Jazz de Montreal
http://www.montrealjazzfest.com/