N.Y.ジャズ見聞録 

第30回 IAJE(国際ジャズ教育者協会)

   年次総会 in トロント 
      
メイン会場であるMTTC(メトロ・トロント・コンベンション・センター)   サブ会場のフェアモント・ロイヤル・パーク・ホテル

 年頭を飾る、アメリカン・ジャズのビッグ・イベントは、大規模な夏のジャズ・フェスティバルに比較して、まだ日本では知る人ぞ知るイベントだが、ジャズ界の教育者、学校関係者が中心となり、ミュージシャン、レコード会社、出版社、楽器メーカーなどの企業関係者、学生、一般リスナーが一同に集結して催かれる、IAJE(国際ジャズ教育者協会)の年次総会である。ニューヨーク、西海岸、その他のエリアと、3年周期のローテーションで、会場を巡回しているが、第30回を迎えた今年は、初めてアメリカを離れ、カナダのトロントで1月8日から11日まで、6,500人以上の参加者を集めた。メイン会場であるMTTC(メトロ・トロント・コンベンション・センター)とサブ会場のフェアモント・ロイヤル・パーク・ホテルでは、4日間で300近いライヴ・コンサート、クリニック、パネルディスカッション、シンポジウムが一斉に進行した。今回はNYを離れ、トロントからリポートしたい。

大盛況の展示会場
 IAJEとは、International Association for Jazz Educatorsの略であり、ジャズ・ミュージックの国際的な教育システムの発展と進歩に寄与することを目的とする会員制組織である。1968年アメリカで、National Association of Jazz Educators (NAJE)として発足し、89年に現在の国際組織に拡大した。現在世界40カ国に8,000人以上の会員を擁し、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア。ラテン・アメリカ、南アフリカなどに支部がある。今年で30回を迎えた年次総会、機関誌”Jazz Educators Journal"の発行、功労者への授賞、奨学金の授与、教育者の養成、コンベンションの主催などを主な活動内容とする。

ホテルのロビーでは、熱いセッションが続く

自著のサイン会にもあらわれたオスカー・ピーターソン

 カナダでの初めての大会とあって、当地が生んだレジェンダリー・ピアニスト、オスカー・ピーターソンが8日の前夜祭から大きくフィーチャーされ、中堅、若手でも、リニー・ロスネス(p)や、イングリッド・ジェンセン(tp)が多くのコンサートに登場し、アメリカ東海岸からも、多くのプレイヤーが、クリニックやパフォーマンスに参加している。非営利団体が運営するイベントなので、通常ではコマーシャル的に運営が難しいビッグ・バンド・コンサートや、有名プレイヤーとハイ・アマチュアの共演、インディ・レーベルのショウ・ケース、意外な組み合わせのセッションなど、NYのジャズ・シーンでもめったにお目にかかれないライヴが、めじろ押しだ。

貫禄のナンシー・ウィルソン
ガレスビーOBビッグバンドで登場、ランディ・ブレッカー
年内には日本語訳の著書が
発売予定のデイヴ・リーブマン

IAJE会長のデヴィッド・ベイカー
 1月9日の午後のジェネラル・コンファレンスで、総会は本格的に始動する。現会長で、著名な教育者でもあるデヴィッド・ベイカー氏のスピーチは、国権拡張優先のブッシュ政権は、文化教育予算を削り教育の現場は厳しい状況にあるが、この困難を一致団結して乗り切る強い意思表明がなされた。オープニング・ファンファーレを担った、ロビン・ユーバンクスのビッグバンド作品"ファースト・サークル"は、ASCAP(アメリカ著作権協会)/IAJE賞を授与された。


ロビン・ユーバンクス・ビッグバンド

 同日の午後6時から開展する、展示会場は、このコンファレンスの参加者の情報収集の格好の場である。約180の企業、学校がブースを出店しているのだが、ニューモデルの試奏ができる楽器メーカー、直販なのでレアな楽譜や教則本が手に入る出版社や有名楽譜店のブース、新作やカタログのプロモーションと連動したコンサートを催くメジャー&インディのレコード会社の企画は、一般のジャズ・ファン、アマチュア・プレイヤーも、大いに愉しめる。ATNが日本語版を出版しているドイツのアドヴァンス・ミュージックのブースには、多くの著者が訪れ、日本での好評を喜んでいた。

アドヴァンス・ミュージック・オーナー夫妻
イージー・ジャズ・コンセプションを
片手にジム・スナイデロ
ジャズ・セオリーの著者
マーク・レヴィン
ジルジャン愛用者のクラレンス・ペン
アート・オブ・コンピングのジム・マクニーリィ
また、各楽器メーカーのブースでは、有名プレイヤーのデモンストレーションが行われる。これらのイベントは同時期のNAMMショウでも、体験できるが、教育者を中心とするIAJEならではの展示は、ジャズの専門課程を持つ学校のガイダンス・ブースであろう。
世界の管楽器奏者の支持を集めるセルマー
アフリカン・パーカッションの専門店 マウンテン・リズム


世界最大のジャズ・スクール、バークリー音大
ニューイングランド・コンサーバトリー
フィラデルフィアの
ユニヴァーシティ・オブ・アート
マンハッタン・スクール・オブ・ミュージック
ノース・テキサス大

 

日本から、アメリカのジャズを学べる学校を調べようとすると、入手できる情報が限られるため、一部スクールに日本人の留学生が集中するような傾向も、見られる。

ジャズ・ミュージックがアメリカのオリジナルの音楽文化と認識されてから、長い年月が経ち、多くの総合大学がジャズ科を設け、優秀なミュージシャンを輩出している。経験豊富な現役プレイヤーから直接学べる大都市圏の大学から、教育者としてのプロフェッショナルを擁する地方大学まで、パフォーマー志向か、アレンジャー、コンポーザー志向、コマーシャルか、よりアーティスティックな方向を目指すかで、学校の選択肢は、多くあるはずだ。ガイダンス・ブースを訪れれば、日本から依頼すると手元に届くまで時間がかかる資料はすぐそろい、また現役学生や、教授陣の演奏を聴いたり、説明を受けることが可能だ。

日本で、ある程度の経験を積み、アメリカでの本格的な勉強を深めたい人は、是非とも参加しアメリカのジャズ教育の懐の深さと、多様性を実感することを、お勧めする。夜のコンサートや、功労賞の授賞式に参加するミュージシャンも、昼はパネル・ディスカッションに参加していることが多い。コメントにも、若いプレイヤーや学生に、自分たちの経験を分け与え、彼らの成長の糧になればという姿勢が見え、好感が持てる。

ジャズ・ヒストリーや、ミュージシャン研究の発表。教育システムに関する研究発表など、学術的なものから、レコード業界全体のシンポジウム、ジャーナリストとミュージシャンとの対話など、ジャズ・ミュージックを支えるさまざまな人々が、"We”という意識で一つになり、この素晴らしい音楽文化の発展に寄与しようとする姿勢は、アメリカを中心とした世界のジャズ・コミュニティの底力を見せてくれた。

来年は、世界のジャズの中心地NYで1/21〜1/24にかけて年次総会は開かれる。早期申し込みをすれば、約$250.00で、4日間のイベントを堪能できる。早めに予約を入れれば、会場のホテルに宿泊することもできる。3年に一度のNY大会は、参加ミュージシャンも多岐にわたり、またより多くの企業、学校が参加し、毎回最大規模で行われる。演奏を愉しむのもよし、レア・アイテムを探すのもよし、学校リサーチには最適であり、NYではジャズ・クラブ巡りも愉しむことができる。シーズンは厳寒期だが、その寒さを吹き飛ばすジャズ・コミュニティの熱さを、訪れて体感して欲しい。


自らの音楽背景を語る
テリ・リン・キャリントン(左)と ジョン・パティトゥッチ

関連リンク

 IAJE ウェッブサイト  http://www.iaje.org/  

 このウェッブサイトから、早期申し込み、ホテル予約は例年8月頃からできますので、チェックしてみてください。活動内容、来年の総会のプログラムも詳細にわかります。参加費は4日間通し参加のみで$200.00〜$250.00ぐらい(開催地により金額が変わります。)ホテルも、特別割引料金が用意されています。