N.Y.ジャズ見聞録 

33 IAJE (国際ジャズ教育者協会)
年次総会
in New York

vol.2

 毎年充実したプログラムを聴かせてくれる、IAJEのコンサート・シリーズは、もちろん小編成のコンボの演奏も素晴らしいが、やはり全米、世界各国から集まる、アマチュアとトップ・レベルのプロフェッショナル・ビッグバンドが見逃せない。ニューヨークでも本格的なビッグバンドをいつでも聴くことが出来るわけではないが、このIAJE週間は毎日2つの会場で熱い演奏が繰り広げられている。今回は、今年のIAJEに登場した素晴らしいビッグバンド達をリポートしたい。


ノー・ネーム・ホーセス


小曽根 真
 前夜祭で、あらゆるビッグバンドの先陣を切ったのは、日本が世界に誇るピアニスト小曽根真率いる"ノー・ネーム・ホーセス"だ。2004年にシンガーの伊藤君子のアルバム「一度恋をしたら〜Once You've Been in Love」(ビデオアーツミュージック)のレコーディングのために編成されたビッグバンドが、ツアーのあとに独立したグループである。殆どのメンバーが自己のバンドを持つ一国一城の主の集まりであり、また守屋純子オーケストラや、熱帯ジャズ楽団など、今の日本のビッグバンド・シーンを代表するグループのメンバーを招集した、オール・ジャパンと言っても過言のないメンバーである。小曽根真が昨年末のディナー・ショウのために再招集し、年明け早々のニューヨーク遠征となった。小曽根はここ数年、クラッシックのオーケストレーションを学び、様々なフォーマットでアンサンブルを追求おり、このグループの編曲も、エリック宮城と共に手がけている。中村健吾(b)、高橋慎之介(ds)とニューヨークで活躍するリズム・セクションの上で、小曽根のピアノが疾走しホーン・セクションと交錯する。ソリストも、いくつものクライマックスを演出する。ジャズ・ヴァージョンのピアノ協奏曲といった曲が多くスリリングな展開に、拍手喝采が贈られた。

池田 篤(as)

近藤 和彦

エリック 宮城

中村 健吾

 ホーム・グラウンドのアメリカ勢も、負けてはいない。前夜祭の最終コンサートは、今やニューヨーク・ビッグバンドの最高峰に位置するマリア・シュナイダー・オーケストラが、鉄壁のアンサンブルで圧倒した。そして2日目には、モダン・ビッグバンドでは、シュナイダーと人気を二分する、ボブ・ミンツアー(ts)・ビッグバンドが登場した。サド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラや、ジャコ・パストリアス・ワード・オブ・マウス・オーケストラのアレンジャー/ソリストとして頭角をあらわしたボブ・ミンツアーが自己のビッグバンドを結成したのは1983年である。90年代からはグラミー賞ジャズ・ラージ・アンサンブル部門のノミネートの常連であり、2002年には「オマージュ・トゥ・カウント・ベイシー」で遂に受賞の栄誉に浴した。適度にポップ、適度に難しいアレンジは、ケンドール・ミュージックからスコアが発売され、全世界のアマチュア・ビッグバンドに演奏され支持を集めている。まずは、お馴染みのミンツアー・ビッグバンドのレパートリーが演奏された。ルーファス・リード(b)を軸にしたリズムセクションと、ホーンのボトムをロジャー・ローゼンバーグ(bs)と、デイヴ・テイラー(b-tb)が盤石のサウンドで支え、高度なアンサンブルとインプロヴィゼーションが展開される。前作「ライヴ・アット・MCG 」でも共演したシンガーのカート・イーリングがステージに現れた。バラード"マイ・フーリッシュ・ハート"に続いて演奏されたのはジョン・コルトレーン(ts)の「至上の愛」から"決意"。マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)からなる黄金のクァルテットの末期のハイ・テンションな演奏を、ヴォーカルをフィーチャーしたビッグバンドが、拡大し新たな血を流し込んで、甦らせた。そしてアップテンポの"アイ・オブ・ザ・ハリケーン"。さすがメジャー・リーガーの実力で、観客をノックアウトしたまま、嵐のようなパフォーマンスは終了した。

ボブ・ミンツアー

ボブ・ミンツアー・ビッグバンド

ルーファス・リード

ロジャー・ローゼンバーグ

フィル・マルコヴィツ


カート・イーリング


ラリー・ファレル

 全米各大学のビッグバンドも、ハイレベルを誇っている。最終日のメインステージには、ジム・スナイデロ(as)や多くの優秀なビッグバンド・プレイヤーを輩出しているノース・テキサス大のワン・オー・クロック・ラボ・バンドが、アマチュア離れしたアンサンブルを聴かせてくれた。ハイスクール・レベルから、ブラスバンドだけでなくジャズ・ビッグバンドを専門のインストラクターが指導し、広い裾野を誇ってるアメリカのアマチュア・ビッグバンド・シーンの頂点に君臨するカレッジ・ビッグバンドの実力は底知れない。


ワン・オー・クロック・ラボ・バンド


 ニューヨークでも、あまり聴くチャンスが少ないヨーロッパのビッグバンドも、IAJEには多く参加する。各都市の放送局や、自治体が運営するビッグバンドが多いのだが、アメリカにもその名を轟かせ、1947年結成の老舗、ケルンのWDRビッグバンドは、パキート・デリヴィエラをスペシャルゲストに迎えての出演だ。ヨーロッパのアーティストは楽器のコントロール技倆が圧倒的に高く、またアメリカのグループとは異なった、より柔軟なジャズへのアプローチが魅力である。チック・コリア・ナイトでもあった最終日のメイン・ステージ、ワン・オー・クロック・ラボ・バンドに続いて登場したのはノルウェイのトロンドハイム・ジャズ・オーケストラだ。ここ数年チック・コリアとの濃密なコラボレーションで意欲作をリリースしている、このビッグバンドのゲストは、もちろんその夜の主役のコリアである。トランペット3、トロンボーン1、フレンチ・ホルン1、チューバ1、バリトンサックス1、テナーサックス2、アルトサックス1、ソプラノサックス1に、ギター、ドラムス、ベース、ピアノのリズム・セクションという変則の15人編成のこのグループは、永遠のアヴァンギャルド・ビッグバンドのカリスマ、ギル・エヴァンス・オーケストラを濃縮して、現代に復活させたようなサウンドを聴かせてくれた。北欧のフィヨルドの白夜のような幻想的かつ抽象的なモチーフのオリジナル曲に続いて演奏されたのは、コリアの代表曲で、メカニックな構造を持つブルース"マトリックス"。その超絶技巧は、コリア独特の速いパッセージとシンクロし、強力なサウンド磁場を築いていた。


WDRビッグバンド

パキート・デリヴィエラ


トロンドハイム・ジャズ・オーケストラ



パネル・ディスカッション
 現在のアメリカのビッグバンド運営に関するパネル・ディスカッションも催された。マリア・シュナイダー、リンカーン・センター・アフロ=ラテン・ジャズ・オーケストラを率いるアルツゥーロ・オファレル、60年代から自己のビッグバンドを率いているチャールス・トールヴァー、ビッグバンド・リーダー、アレンジャー、教育者としても知られるゲイル・ボイド、ジョン・クレイトン、ゴードン・グッドウィンが集い、現在のアメリカのビッグバンドを取り巻く状況を、ディスカッションした。ジャズの本場であるアメリカでも、多くのビッグバンドが活況で、覇を競っていた30年代〜40年代のスイング時代とはことなり、現在は困難な状況が常につきまとい、大編成のグループを維持しつつ、クリエイティヴィティを充実させることへの、いくつものテーマが呈示され興味深かった。次回は、ザ・ジョン・ファディス・ジャズ・オーケストラとカウント・ベイシー・オーケストラが競演し、多くのジャズ・レジェンド達が大集結した、NEAジャズ・マスター授賞式の模様をリポートしよう。

関連ウェッブサイト

IAJE
http://www.iaje.org

小曽根 真
http://www.makotoozone.com

マリア・シュナイダー
http://www.mariaschneider.com

ボブ・ミンツアー
http://bobmintzer.com

カート・イーリング
http://www.kurtelling.com

WDR Big Band
http://www.wdr.de/radio/orchester/big_band/eng/index.phtml