N.Y.ジャズ見聞録 

33 IAJE (国際ジャズ教育者協会)
年次総会
in New York

vol.3


 前夜祭も含めると、4日間にわたるIAJEのハイライトの一つは、NEA(National Endowment for the Arts, 国立芸術院)主催による、2006年度のジャズ・マスター賞顕彰コンサートであった。13日の夜、メイン会場のヒルトン・ホテルのグランド・ボールルームに、2つのビッグバンドと大観衆を集めて催かれたこのイベントに、スポットを当てたい。

 アメリカが生み出した偉大なる音楽文化/スタイルである、ジャズの発展と継承を目的として、その歴史の中で多大な貢献を果たしたアーティストを顕彰するNEAジャズ・マスター賞は、1982年に始まり、第一回はセロニアス・モンク(p)や、ディジー・ガレスビー(tp)らに授与された。以来、2005年まで、79人のジャズ・マスターが誕生している。今年はフレディ・ハバード(tp)、レイ・バレット(per)、チック・コリア(p,kb)、ジョン・レヴィー(マネージメント)、バディ・デフランコ(cl)、ボブ・ブルックマイヤー(tb)、トニー・ベネット(vo)の7人が、新たにジャズ・マスターに加わった。

 


フレディ・ハバード(左)


チック・コリア

トニー・ベネット

 ジョン・ファディス・ジャズ・オーケストラのメンバーがステージに登場した。かつて、リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラと、覇を競い合ったカーネギー・ホール・ジャズ・バンドの系譜をひき"The Jazz Orchestra of New York"の名にふさわしい、精鋭が集結したビッグバンドである。デューク・エリントンの"ブラック、ブラウン&ベージュ組曲"からの"ベージュ"と、フランク・フォスター(ts)がカーネギー・ホール・ジャズ・バンドのために編曲したジョン・コルトレーンの"カウント・ダウン"が、長い夜の幕開けを告げた。ファディスは、グループを統率しながら、相変わらずの世界一のハイノート・ヒッターぶりを聴かせている。テッド・ローゼンタール(p)が、ファディスのリーダーシップをサポートし、このような式典にふさわしいゴージャスで、エンタテインメントたっぷりのパフォーマンスである。ファディス・オーケストラのファンファーレに導かれて、約30名ほどの歴代のジャズ・マスター受賞者達が一人ずつ紹介され、拍手に応えながらステージ正面の招待席に着席する。フィナーレに、本年度のジャズ・マスターの7人が万雷の拍手を浴びて登場した。


ジョン・ファディス・ジャズ・オーケストラ

 


ジョン・ファディス

 

 



ドナ・ギオイア
 NEAのチェアマン、ドナ・ギオイアの開会宣言、続いて既にジャズ・マスターを受賞しているプレゼンターのラムゼイ・ルイス(p)と、ナンシー・ウィルソン(vo)が、司会をも務める。フレディ・ハーバード(tp)の華々しいキャリアを解説するヴィデオがスクリーンに映し出され、本人がステージに登場する。近年は唇のコンディションがよくなく、演奏を聴ける機会がだいぶ少なくなってしまったが、まだまだ老け込むような年齢ではないので、その本格的なカムバックを望みたい。続いて登場したのは、ラテン・ジャズの第一人者のレイ・バレット(per)。惜しくも約一月後の2月17日に、鬼籍には入り、おそらくこの日が最後のパブリック・アピアランスと思われる。謹んでご冥福をお祈りしたい。前半のクライマックスは、チック・コリアと共に訪れた。1960年代から、常にイノヴェイティヴなプレイで、ジャズ・シーンをリードし続け、エレクトリック、アコースティックと、どのようなフォーマットでも、常にコリアは第一人者の地位をキープし続けている。

レイ・バレット

ボブ・ブルックマイヤー

 インターミッションのあとのステージには、オリジナル・メンバーであるビル・ヒュー(tb)率いるカウント・ベイシー・オーケストラが登場した。ベイシー亡き後、フレディ・グリーン(g)、サド・ジョーンズ(tp)、フランク・フォスター(ts)、グローヴァー・ミッチェル(tb)と歴代のオリジナル・メンバーに引き継がれてきた伝統は、現在もそのサウンドにしっかりと息づいている。かつてエラ・フィッツジェラルド(vo)も歌っていたシンガーのポジションには、ニーナ・フェローンが就いた。"シャイニー・ストッキング"などスウィンギーなナンバーが演奏される。エロル・ガーナのバラード"ミスティ"では、1989年にジャズ・マスターに顕彰されたバリー・ハリス(p)が客席からステージに上がり、フェローンのディープなヴォイスをサポートする絶妙のコンピングを聴かせてくれる。客席が湧き上がった頃に、セレモニーが再開された。


カウント・ベイシー・オーケストラ

 


ニーナ・フェローン

バリー・ハリス

 ジョン・レヴィーは、1940年代後半は、ビリー・ホリディ(vo)らとの共演で知られるベーシストであったが、50年代からはマネージャー業に転向、黒人ミュージシャンの地位向上にビジネス・サイドから尽力し、大きく貢献した。ホステス役のナンシー・ウィルソンも、かつてレヴィーがマネージャーを務めており、ウィルソンが「今日の自分があるのは、すべてジョンのおかげ。本当にありがとうございます。」と泣き崩れるシーンもあった。ベニー・グッドマン(cl)から始まるスウィング・ジャズの伝統を現代に伝えるバディ・デフランコ(cl)、60年代に登場したモダン・ビッグバンドの先駆、サド・ジョーンズ(tp)=メル・ルイス(ds)・オーケストラのアレンジャーのひとりであり、マリア・シュナイダー(cond.)ら優秀な弟子を育成し、自身もニューアート・オーケストラを率い、衰えない創造力を発揮しているボブ・ブルックマイヤー(tb)が次々と紹介され、スピーチを述べる。オオトリをとったのは、ジャズのみならず、アメリカン・ポップスのビッグ・ネーム、トニー・ベネット(vo)だった。フランク・シナトラ(vo)亡き後、ゴージャスな古き良きアメリカを体現している数少ないカリスマ・シンガーに、会場からは惜しみない拍手が、贈られた。

 フォーマルなセレモニーも終わり、いよいよコンサートもグランド・フィナーレを迎えた。ステージ上手にはカウント・ベイシー・オーケストラ、下手にはジョン・ファディス・ジャズ・オーケストラと、総勢40人近いミュージシャンがステージに昇る。1961年のアルバム"デューク・エリントン・ミーツ・カウント・ベイシー"からのビッグバンド・バトル・チューンがピック・アップされ、両ビッグバンドも、強力なスウィング・リズムに乗って、次々とソロの応酬が繰り広げられる。最後の曲はベイシー・オーケストラのテーマ曲"ワン・オー・クロック・ジャンプ"、チック・コリア、ジミー・ヒース(ts)もシット・インし、また10歳の少年トランペッター、タイラー・リンゼイが、ジャズ・マスター顔負けのソロをとり、大いに会場を盛り上げた。マリア・シュナイダーや、ボブ・ミンツアー(ts)のビッグバンドのような、アレンジ、ハーモニー重視型の21世紀のモダン・ビッグバンドを堪能しつつ、スリリングなスウィング・リズムと、ハッピーなエンタテインメントに満ちた、極上のオールド・ジャズをも楽しめる。IAJEは、現代ジャズ・シーンを体感できる濃密な4日間を、いつも味あわせてくれる。2007年もニューヨークで開催とのこと、またどんな4日間を過ごさせてくれるのか、期待がふくらむ。


関連ウェッブサイト

IAJE
http://www.iaje.org

NEA Jazz Master
http://www.nea.gov/national/jazz/index.html

ボブ・ブルックマイヤー
http://www.bobbrookmeyer.com/

チック・コリア
http://www.chickcorea.com/

トニー・ベネット
http://www.tonybennett.net/