N.Y.ジャズ見聞録 

34th IAJE Annual Conference
in New York City
vol.3

NEAジャズマスターズ授賞式典
&
グランド・フィナーレ、輝く巨星たち

 前回、前々回と、さまざまなコンサート、展示、クリニック、パネルディスカッションと、ジャズ・コミュニティ屈指ののビッグイベント、IAJE(国際ジャズ教育者協会)2007年度年次総会を、さまざまな角度からリポートしてきた。その最大の山場は、ヒルトン・ホテルのグランド・ボールルームにおける、1月12日のNEAジャズマスターズ授賞式典と、13日の夜のコンサートである。今回はこの熱い2晩を、洩らさずお伝えしよう。

 多くのイベントが、朝から深夜まで、ヒルトン・ホテル、シェラトン・ニューヨークの各ホールで同時進行するIAJE年次総会だが、メインは毎夜8時からのヒルトン・ホテル、グランド・ボールルームでのコンサートであり、ここにもっとも著名なアーティストや、海外ゲストが出演する。総会3日目の午前中にはNEA(National Endowment for the Arts / 国立芸術基金)の本年度ジャズ・マスターズ受賞者達によるディスカッション、続いて正午には、当日会場に駆けつけた歴代ジャズ・マスターズ受賞者とのフォトセッション、そっして夜にはNEAとIAJEがタイアップした恒例のNEAジャズ・マスター授賞式が催かれる。この式典には、多くの歴代ジャズ・マスターズも参加し、ビッグバンドや、コンボ、シンガーによって新たなジャズ・マスター達の誕生を祝福するのだ。


ジミー・スコット(vo)

ナンシー・ウィルソン(vo)


クレイトン・ブラザース・クインテット


フランク・ウェス(ts,fl)

ダン・モーゲンスタイン


ダナ・ギオイア

 歴代のジャズ・マスターズが満場の拍手に称えられる入場式に続いて、西海岸を中心に活動するクレイトン・ブラザース・クィンテットによる高らかなファンファーレによって、イヴェントは始まった。NEAチェアマンのダナ・ギオイアが開会を告げ、いよいよ本年度のジャズ・マスターズが授与される。会場のライトが暗くなり、スクリーンにヴィデオが投影された、波瀾の人生を送ったジミー・スコットの、カムバックまでの道程が紹介される。プレゼンターには、スコットを慕うジャズ・マスター、ナンシー・ウィルソン(vo)が登場、盾と共にスコットを強く抱きしめた。アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの主要メンバーとしても活躍していたハードバップの伝道師カーティス・フラーには、IAJE元代表で、やはりトロンボーン・プレイヤーのデイヴィッド・ベイカーから授与された。


カーティス・フラー(tb)とデイヴィッド・ベイカー(tb)

 ステージでは、再び演奏が始まる。クレイトン・ブラザース・クインテットは、ジョン・クレイトン(b)と、ジェフ・クレイトン(as)の兄弟にジョンの息子ジェラルド・クレイトン(p)のクレイトン・ファミリーを中心に、進境著しい中堅トランペッター、テレル・スタッフォードと若手ドラマーのオベド・クラヴァイアからなる、ヴェテラン、中堅、若手の三世代がバランスよくブレンドされたグループで、スウィンギーなビバップを楽しませてくれた。
 かつてカウント・ベイシー・オーケストラの黄金時代をフランク・フォスター(ts)とともに支えたフランク・ウェス(ts,fl)、ナチス迫害を逃れてアメリカに移民、ジャズに魅せられジャーナリストを志し、アメリカのもっとも権威あるジャズ誌「ダウンビート」の編集長を永年勤めた評論家のダン・モーゲンスタインの授賞が行われた。

 ステージが暗転し、20人の大編成グループが登場した。ジャズ・ミュージックの華ビッグバンド、その中でも、もっとも過激なビッグバンドとして知られたディジー・ガレスビー・ビッグバンドのOBが中心となって編成された、ザ・ディジー・ガレスピー・オールスター・ビッグバンドの登場である。ディジーの代表曲「ホット・ハウス」や、スタンダードの「オールド・フォークス」が演奏され、ロイ・ハーグローブ(tp)から、ジミー・ヒース(ts)のような大ヴェテラン、指揮者も兼ねるスライド・ハンプトン(tb)らが次々とソロをとる。スペシャル・ゲストとして、ナンシー・ウィルソンが登場し、「カム・レイン・カム・シャイン」を熱唱。堂々たる貫禄を示した。


ロイ・ハーグローブ(tp)


スライド・ハンプトン(tb,arr)



穐吉敏子(p,arr)


フィル・ウッズ(as)

 興奮も醒めやらぬうちにスクリーンには敗戦直後の日本の風景が映し出された。そして日本の復興が始まった頃、最初に日本公演を行ったオールスターセッション、JATP(Jazz at Philharmonic)の一員だった、オスカー・ピーターソン(p)に見いだされ、レコーディングと全米デビューのチャンスをつかみ渡米、バークリー音楽院留学、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル出演、自己のビッグバンドの結成、数々の受賞の栄誉と、50年の長い道のりを歩んできた、穐吉敏子のヒストリーが紹介された。ビッグバンド・リーダーの先達、ジェラルド・ウィルソン(ds)の紹介で、穐吉が壇上に現れた。東洋人として初めてのジャズマスターズ受賞。また新たな頂きに、穐吉が到達した瞬間であった。チャーリー・パーカーを信奉し、ビバップ一筋でありながら、ビリー・ジョエル(vo,p)の「素顔のままで」のソロでも知られるフィル・ウッズ(as)や、ジャズとソウルミュージックの融合や、テレビでレギュラー番組を持ち、ジャズの人気獲得に大きな功績を挙げたラムゼイ・ルイス(p)も顕彰された。


本年度ジャズマスター受賞者によるパネルディスカッション

ラムゼイ・ルイス(p,kb)

ザ・ディジー・ガレスピー・オールスター・ビッグバンド

 再びゴージャスなビッグバンド・サウンドが鳴り響く。イタリア出身の若手シンガー、ロバータ・ガンバリーニをフィーチャーしたフィナーレだ。ジェイムス・ムーディ(ts)も、ステージ中央でガンバリーニとマイクをシェアし、スキャットの応酬で、セレモニーのエンディングを盛り上げた。


ロバータ・ガンバリーニ(vo)


 4日間の総仕上げとも言うべき、最終日の夜のステージは、まずヨーロッパからのゲストを迎えて始まった。昨年は、ノルウェーからトロンドハイム・オーケストラらを招いて、現代ヨーロッパの最先端ビッグバンド・サウンドを堪能させてくれた。今年は、学生からフレンチ・ジャズ/ポップスの重鎮ミッシェル・ルグランが登場し、フランスのジャズの現在、過去、未来をパノラマのように、聴かせてくれる。パリ国立音楽院の選抜メンバーの演奏は、変則編成のラージ・コンボである。ヨーロッパのミュージシャンの特徴である、高い楽器演奏能力は既に学生の段階から発揮されていて驚かされた。野心的なアレンジの曲が続く。大きな拍手に迎えられて、粋な白いマフラーを首から下げたミッシェル・ルグラン(p)が登場。孫の世代の学生達と、共演した。続いて登場したのは、フレンチ・エリート・オールスターズ。ジャンゴ・ラインハルト(g)とステファン・グラッペリ(vln)のジプシー・ジャズの流れを汲む、エキゾチックなサウンドが新鮮だ。超絶技巧のヴァイオリニスト、ディディエール・ロックウッドと、シルヴェイン・リュック(g)の官能的とも言えるインタープレイに、オリヴァー・カー・オウリオのハーモニカが鋭く切れ込む。ミシェル・ルグランも再び登場し、代表曲「ウィ・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」を演奏した。現代フランス・ジャズ界の真打ちとして登場したのは、当代随一のアコーディオン奏者リシャール・ガリアノだ。フレンチ・エリート・オールスターズのリズム陣二人を引き継ぎ、縦横無尽のソロをとり圧倒した。ジャズが、フランスのシャンソン、ジプシー・ミュージックと融合して出来た音世界は、アメリカのジャズとは一線を画しており、ワールド・ミュージックとしてのジャズの側面にスポットが当たったコンサートであった。


ミッシェル・ルグラン(p)


パリ国立音楽院の学生ジャズ・アンサンブル


リシャール・ガリアノ(accordion)


リシャール・ガリアノ・トリオ



 1月13日の昼頃から、その日の早朝に、骨髄液異形成症候群で闘病生活を送るマイケル・ブレッカー(ts)が亡くなったという噂が、ささやかれていた。また前年秋には、久々のコンサート・ツアーを行うなど、精力的な活動を再開したアリス・コルトレーン(p,harp,org)も、前日に急逝したという情報も入ってきた。いよいよ4日間の大トリ、チャーリー・ヘイデン(b)率いるビッグバンド、リベレーション・ミュージック・オーケストラが登場するとき、ステージ脇のスクリーンに、アリス・コルトレーンとマイケル・ブレッカーのポートレートが投影され、二人の訃報が発表された。ブレッカーの晩年の代表作「ニアネス・オブ・ユー〜ザ・バラッド・ブック」からハービー・ハンコック作曲の「チャンズ・ソング」が流れる。映画「ラウンドミッドナイト」の劇中、主人公のデイル・ターナー役のデクスター・ゴードンが、この世を去る直前に娘に捧げて書き、その追悼コンサートで同僚役のハンコックらによって演奏される曲である。アリス、ブレッカー両者と共演し、親密な関係にあったチャーリー・ヘイデン(b)が二人の思い出を語り、この日のコンサートを、この二人と昨年亡くなったデューイ・レッドマン(ts)に捧げると宣言した。哀悼を込めてドボルザークの「家路」、「アメイジング・グレイス」が演奏され、会場は厳粛な空気に包まれる。アルバムでは、カーラ・ブレイ(p)が音楽監督とピアニストを務めたが、この日は、晩年のブレッカーの音楽ブレーンだったギル・ゴールドステイン(p)が、そのポジションに就いた。慟哭に耐えるプレイに、心がうたれる。また、マイケル・ロドリゲス(tp)や、ミゲール・ゼノン(as)ら今が旬な若手から、デューイ・レッドマン(ts)の薫陶を受けたマット・ウィルソン(ds)の安定したドラミング、カーティス・フォークス(tb)らヴェテランのいぶし銀のプレイが化学反応をおこし、元祖アヴァンギャルド・ビッグバンドの名にふさわしい演奏が続いた。ゴスペル・スタンダードの「ウィ・シャル・オーヴァーカム」で、アリス、ブレッカー、レッドマンら3人の一生を祝福して、コンサートは幕を下ろした。


チャーリー・ヘイデン(b)


ギル・ゴールドステイン(p)

マット・ウィルソン(ds)


リベレーション・ミュージック・オーケストラ

 来年の年次総会は1月9日から12日まで、カナダのトロントで開催される。是非この濃密な4日間を体感することを、お薦めする。

(1/12、13/2007 於Hilton New York & Towers, Sheraton New York Hotel & Towers)


関連ウェッブサイト

Phil Woods
http://www.philwoods.com

Ramsey Lewis
http://www.ramseylewis.com

Alice Coltrane
http://www.alicecoltrane.org/