N.Y.ジャズ見聞録  

Dave Liebman Special Group

Tribute to
Miles & Coltrane

 

 70年代のエルヴィン・ジョーンズ(ds)・ジャズ・マシーン、マイルス・デイヴィス(tp)のエレクトリック・バンドでシーンを華々しく疾走し、自己のグループ、 日野皓正(tp)との双頭ユニット、また教育者としても高い評価を得ているデイヴ・リーブマンは、この9月に60歳を迎えた。ジャズ・クラブ"バードランド"では、バースデイ・セレブレイションを9/13〜16の4日間、毎日異なるバンドで催した。その最終日をリポートしたい。


 ツイン・サックスのクァルテット、レギュラー・グループ、ビッグバンドと続き、いよいよ大団円の最終日には、リーブマンの音楽の源流であるマイルス・デイヴィス(tp)&ジョン・コルトレーン(ss)・トリビュートをテーマに、スペシャル・ユニットを編成した。マイルスの役どころに、ヴェテランのランディ・ブレッカー(tp)、コルトレーンの忘れ形見であるラヴィ・コルトレーン(ts)と、リーブマン自身がコルトレーンを演じ、リーブマンの盟友フィル・マコーウィッツ(p)と、数々のグループのボトムを支える名バイ・プレイヤー、セシル・マクビー(b)と、アダム・ナシュバム(ds)からなるグループだ。折しも今年2006年は、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンともに生誕80年、このライヴの翌週の9/23は、コルトレーンの誕生日ということもあり、ニューヨークのジャズ・アット・リンカーン・センターや、ブルーノートでは、コルトレーンに捧げるライヴ、ディスカッションが企画され、バードランドでも、翌週にも、ジョー・ロヴァーノ(ts)やスティーヴ・キューン(p)によるスペシャル・ライヴがブッキングされていた。また、コルトレーンが青春時代を過ごしたフィラデルフィアでも、誕生日の週末には記念ジャズ・フェスティバルが催されていた。


ラヴィ・コルトレーン(ts)


フィル・マコーウィッツ(p)


ランディ・ブレッカー(tp)


セシル・マクビー(b)


アダム・ナシュバム(ds)



デイヴ・リーブマン

 デイヴ・リーブマンは、ブルックリン出身で、現在はフィラデルフィアを中心に、演奏、教育活動をしている。71年から73年にかけてコルトレーン・クァルテットのドラマー、エルヴィン・ジョーンズのグループ"ジャズ・マシーン"での、スティーヴ・グロスマン(ts)とのサックス・バトルで名を馳せ、73年から74年にはサイケデリック・ファンク時代のマイルス・デイヴィス・グループの中核をなし、その確固たる地位を確立した。70年代半ば以降はリーダー・グループ"ルックアウト・ファーム"、"クエスト"や数々のセッションで活躍、演奏者の間ではカリスマ的な人気を誇り、またジョン・コルトレーン研究者としても知られている。一時期、テナー・サックスを吹くと、あまりにコルトレーンに似すぎてしまうきらいがあるため封印し、ソプラノ・サックスとフルートに専念していたが、90年代中頃から、その封印を解いた。自らの長年の演奏活動と、コルトレーン研究の成果を、91年に"A Chromatic Approach to Jazz Harmony and Melody "(Advance Music)として上梓した。日本での翻訳版の出版が待たれる著作である。

 


 この日のスペシャル・ユニットのベーシック・アイディアは、リーブマンの呼びかけで結成した、ジョー・ロヴァーノ(ts)、マイケル・ブレッカー(ts)からなる"サクソフォン・サミット"にある。マコーウィッツ、マクビーというこの日と同じピアノ、ベースに、3管ホーンがのり、スピリチュアルなソロをとるという構成は、マイケル・ブレッカーが病に倒れたために中断したプロジェクトを、兄のランディ・ブレッカーの力を借りて、復活させているように思われた。
 ファースト・セットは、マイルス特集で、"オール・ブルース"や、"バイ・バイ・ブラックバード"が、クールなアレンジで再現されたそうだが、筆者が立ち会ったセカンド・セットは、リーブマンの本領発揮のコルトレーン・ナンバーが演奏された。まずはコルトレーン・スタンダードの"インプレッションズ"。リーブマンが先発でテンションを一気に高め、ブレッカーが中継ぎでそれをクールに維持、抑えのラヴィ・コルトレーンでドラマティックに盛り上がり、ピアノ・ソロをはさみ、怒濤のソロ交換、またフロントをナシュバムが激しく煽り、一曲目から全力で奔り抜けた。
 続いては、"メディテイション組曲"が演奏された。アメリカ・ジャズ史上最強のグループと言っても過言ではない、"ザ・クラッシック・クァルテット"の異名をとるコルトレーン、マッコイ・タイナー(p)、エルヴィン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソン(b)のグループのラスト・レコーディングで知られるアルバムからの選曲だ。64年末に、コルトレーン・クァルテットの金字塔である"至上の愛"を完成させたあと、65年半ばには集団即興演奏の異色作"アセンション"を制作、もう後戻りは許されないところに行き着いた65年11月に録音され、オリジナル・メンバーの4人に、コルトレーンの早すぎる晩年に行動をともにする、ファラオ・サンダース(ts)とラシード・アリ(ds)が加わり、爆走するフリー・フォームとコルトレーンならではのリリシズムが混在する問題作である。このアルバムのあと、永年行動をともにしたマッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズは、コルトレーンと袂を分かつこととなる。リーブマンは、現代的な新解釈を加えることなく原典を忠実になぞることからはじめた。激しく咆吼するリーブマンとは対照的に、どっしりと落ち着いたプレイをするラヴィ・コルトレーン。彼は、2歳の時に父を亡くしほとんどその記憶を持たないが、晩年の父のグループの中核をになった、母アリス・コルトレーンの薫陶を受け、あらゆるギグを録音して残していた父の演奏を分析し、遅咲きの大輪を咲かせたプレイヤーだ。クールなプレイが身上のランディ・ブレッカーもいつになく熱く燃え上がる。

 "メディテイション組曲"は、"父と子と精霊"、"慈悲"、"愛"、"帰結"、"平穏"という5つのパートがメドレーで構成されている。激しいリズムを従えてフロントのホーンが咆吼し、ピアノがパーカッシヴに跳ねる前半2パートは、"サクソフォン・サミット"でも聴かれた感情の流れに直結した、スピリチュアルなプレイを踏襲していた。サウンド・カオスは静寂なベース・ソロに収斂し、そこからリリカルなバラード"愛"に移行する展開も、オリジナルを忠実にフォローしている。そしてまた、ラヴィ・コルトレーン、ブレッカーが加わり、激しいせめぎ合いへ発展し、ナシュバムとホーン・プレイヤー達のダイナミックなデュオに至る。再び穏やかなピアノ・ソロとリーブマンのソロが入り、クライマックスに到達して、1時間にも及ぶ音楽詩は終わった。
 思春期にジョン・コルトレーンの演奏に触れ、人生の啓示をうけたデイヴ・リーブマンは、コルトレーンのテクニカル・サイドと理論の研究にも、これまでのミュージシャン・キャリアを捧げてきたと言える。そして、ついにコルトレーンが到達したスピリチュアルな世界にも、いよいよ到達しつつあるのではという印象を持った。ジャズ・ヒストリーの中で、そびえ立つ巨人ジョン・コルトレーンは没後40年近くたった現在も、その継承者達の中で生き続けている。

(9/16/2006 於Birdland NYC)


関連リンク

Dave Liebman  http://www.upbeat.com/lieb/

Birdland  http://www.birdlandjazz.com/