ダグ・ビーチとジェフ・ジャーヴィスは、IAJEの展示会場で同じスペースをシェアする、ジャーヴィスが役員を務めるケンドール・ミュージックと、ダグ・ビーチ・パブリケーションのブースにあらわれた。アグレッシヴなのジャーヴィスと、物静かなビーチは、対照的なキャラクターだ。2人とも、トランペッターであるだけでなく、作曲家、編曲家、教育者、クリティシャン、コンペの審査員、音楽出版社役員、教則本執筆者と、多くの顔と長いキャリアを誇っている。
まず、この本を出版した動機について聞いてみた。大きな理由の一つに、ジャズ教育者の世代交代があげられるとのこと。アメリカの大学にジャズ専攻が開設された頃、その教員は、モダン・ジャズの創生期のジャズ・ジャイアント達の下の世代で、ジャズの口承伝授を受けていた人たちの中から、そのエッセンスを普遍的に理論化でき、次世代の育成に情熱を持った人たちが、つとめていた。この世代の教育者が引退し、その薫陶を受けた世代に移行しつつあるのが、近年の状況だ。その世代交代の中で、譜面や理論だけではカバーしきれない、ジャズの重要な要素のリズムやハーモニーの微妙なニュアンスを正確に伝えるために、今この本を作る必要があったと説明してくれた。
同封されている2枚の音楽CDには、151ものトラックが収録されているが、これには模範例だけでなく、アマチュア・バンドが陥りやすい悪い演奏例も、譜面と照合して原因が明確にわかるように解説されている。百聞は一見ならぬ、一聴にしかず。ハイ・テクノロジーの現代だからこそ、原点に帰りシンプルに音楽を聴いて理解すると言うことが重要であると、ジャーヴィスは言う。よい教育者になるためには、必ずしも優れたプレイヤーである必要はない。音楽に対する正確な理解と知識、そして教育への熱意があれば、誰にでも可能性は拡がっている。「ジャズ・エデュケーターズ・ハンドブック」をリファレンスにして、世界中のスクール&アマチュア・バンドのクオリティを高めたいと、ビーチとジャーヴィスは語ってくれた。
翌朝、"New Music Reading"という企画コンサート参加している、ジャーヴィスを聴いた。各大学の教員プレイヤーを中心としたビッグバンドで、前年に発表された曲とアレンジを、全くの初見で演奏し、それを聴く出版関係者が、その出版権を落札するショウ・ケース的なイヴェントだ。ジャーヴィスはもちろん優れた教育者であるだけでなく、卓越した演奏家でもあった。