N.Y.ジャズ見聞録 

グルーヴするストリングス・セクション

ジム・スナイデロ
最新作“ストリングス”完成

 穐吉敏子ジャズ・オーケストラや、ミンガス・ビッグ・バンドの、メイン・ソリストとして、NYのビッグ・バンド・シーンでは貴重な存在のサックス/フルート奏者、ジム・スナイデロの12枚目のリーダー作“ストリングス”が完成し、2003年3月にマイルストーンからリリースされる。10人のストリングス・セクションを従えた、この野心作の全貌を明らかにしよう。
 ATN 発行のイージー・ジャズ・コンセプション/スタディー・ガイド・シリーズおよびジャズ・コンセプション・シリーズの著者として、また、ジャズ・エデュケイターとしても評価の高いジム・スナイデロ。2002年9月にも東京、横浜と京都で行われたクリニックも多くの聴講生を集めて、好評を博した。アメリカでも、ボストンのバークリー音楽大学、ニューヨークのニュースクール大学群マネス音大、母校のノース・テキサス州立大、インディアナ大、マイアミ大で、教鞭を執り、後進の指導に力を注いでいる。
 ジム・スナイデロは首都ワシントンDC出身、ノース・テキサス州立大を経て、1981年にNYに進出した。NYでレギュラーで活動している、上記ビッグ・バンドのほかに、エディ・パルミエリ・ラテン・オーケストラ、フランク・シナトラ・オーケストラ(DuetII のレコーディング)等のビッグ・バンドを中心に、ベニー・グリーン(p)、ピーター・ワシントン(b)、トニー・リーダス(ds)らによる、自己のクァルテットを率いて、活躍中だ。その演奏は、チャーリー・パーカー直系のバビッシュなプレイから、ジョー・ヘンダーソン(ts)の影響を受けた、クールなモーダル・フレーズを、クリアーな音色でプレイする、コンテンポラリー・ストレート・アヘッドといえるスタイルで、多くのグループで、鮮烈な存在感を放っている。


マーク・フェルドマン
 クァルテット、クインテット編成で、過去11枚のリーダー作をアメリカ、ヨーロッパ、日本のレーベルから発表しているスナイデロだが、最新作“ストリングス”は、満をじして、アメリカのメジャー・レーベル、マイルストーンからのリリースだ。大学時代からの親友、ボブ・ベルデンをプロデューサーに迎え、ソリストのヴァイオリン奏者マーク・フェルドマンを中心とした、ヴァイオリン6人、ヴィオラ2人、チェロ2人からなる、ストリングス・セクション。指揮棒を振るのは、穐吉敏子ジャズ・オーケストラの僚友ウォルト・ワイスコフだ。リニー・ロスネス(p)、ポール・ギル(b)、ビリー・ドラモンド(ds)のリズム・セクションが堅実にサポートする。

photo by Jim Snidero
 レコーディングは当初、2001年9月11日に予定されていたが、米国中枢部同時多発テロ事件で、延期された。アメリカとアメリカ人にとって、過酷な1ヶ月を克服したのち、10月25日と11月13日に録音されたこのアルバムは、さらにディープな内的世界を構築している。録音から1年以上をおいて熟成された本作品は、全8曲のうち、オリジナル作品が6曲を占め、すべての編曲をスナイデロ自身が手掛けている。現時点の、彼の音楽キャリアの総決算というべき大作だ。9.11の被害者たちに捧げられた鎮魂歌"Forever Gone"は、スナイデロの高いミュージシャン・シップを顕している。アルバムの中心をなしているのは、リヴァー組曲であろう。ニューヨーク州を南北に縦断し、マンハッタンに流れ着く大河、ハドソン川をモチーフとし、"Dawn(源流)"、"On the Bank(河岸)"、"Torrent(急流)"の3曲から構成されている。川の畏敬に満ちた自然の美しさ、人間への恵み、多くの生命をはぐくむ神秘、そして人間の日々の生活の営みと共通を見いだせる流れのドラマを、音楽で表現することにチャレンジしたと、スナイデロは語っている。

指揮者のウォルト・ワイスコフとスナイデロ

アルト・サックスとストリングスの対話のミステリアスなバラード"Dawn"、フルートのソロが美しく、4/4拍子と3/4拍子が交錯するトリッキーな構造でありながら、川の流れのように柔軟なリズムの"On the Bank"、アップテンポ・スウィングで、自然の峻厳な一面を描いた、"Torrent"と、大都会ニューヨークを包み込むハドソン川のストーリーを、あたかも人生のようにダイナミックに描いている。サックスと、ストリングスが、ときに美しく融合し、またコントラストを描く。長年のビッグ・バンドでの演奏経験が、けっしてメロウなだけでなく、ハードな一面も備え持つ、ストリングス・アレンジに反映されている。サックス・セクションのソリのようにグルーヴするストリングス・セクションは、高度なアレンジと、リードするスナイデロのサックスのメロディが、もたらす効果であろう。オープニングを飾るワルツ"Slipping Away"、妻に捧げた愛らしいテーマの"Ventura"と、ジム・スナイデロの作曲、編曲、パフォーマンスのトライアングルが、今、円熟のバランスを描いていることを証明している。アメリカのメジャー・レーベルという大舞台に、いよいよ躍り出たジム・スナイデロは、そのスケールの大きな音楽で、音楽を学ぶ学生だけでなく、世界中のリスナーにも、注目される存在になる。

(11/7/2002 於 Systems Two Recording Studio、Brooklyn,NY)

関連リンク

Jim Snidero website  http://www.jimsnidero.com

"Strings"の中の数曲の一部と、譜面がダウンロードできる。