N.Y.ジャズ見聞録  

三上クニ トリオ @ The Kitano New York

ビバップの伝統を継ぐ、 メロディとリズムのカレイドスコープ

 日本のジャズ・ファンに、もっともポピュラーな楽器編成は、ピアノ・トリオであろう。レコード会社各社の企画でも、ピアノ・トリオ作品はかならずメインを飾り、好セールスを記録することが多い。適度のダイナミックスと、耳慣れたピアノ・サウンドが、入門者からヴェテランのリスナーまで、多くの人の支持を得る理由の一つだ。ATNから発行されたJazz Piano〜ジャズ・ピアノ・マスター達のスタイル考察〜 は、ピアノがジャズの主要楽器となっていく過程において登場した、イノヴェイティヴなピアニスト15人の代表的な演奏を取り上げて解説した、画期的な教則本であり、ピアノ・トリオの魅力を余すところなく感じることが出来る。翻訳者の三上クニのコメントと、良質なピアノ・トリオを聴かせてくれるクラブとして、名が知られるようになってきたThe Kitano New York (キタノ・ホテル)のバーでのギグをお伝えしたい。

 ジャズ・ピアノの開祖といえるニューオリンズ・スタイルのジェリー・ロール・モートン、ビッグバンド・リーダーとしてだけでなく、独自のミニマルなピアノ奏法を築いたデューク・エリントン、カウント・ベイシー、チャーリー・パーカー(as)やディジー・ガレスビー(tp)が創造したビバップの方法論をピアノで確立したセロニアス・モンク、バド・パウエル。ピアノ・トリオを三者対等のインタープレイをメインとしたスタイルに改革し、クラシカルな要素を大胆に導入した、ビル・エヴァンス、ジョン・コルトレーン(ts,ss)のモーダルな演奏スタイルとアフリカ色をピアノに置き換えたマッコイ・タイナー、すべてのジャズ・ピアノのスタイルを統合した上で、圧倒的なオリジナリティを創りあげたハービー・ハンコック(p)と、100年にも満たない間にジャズ・ピアノは急激な進化を遂げてきた。バーミンガム・コンサーヴァトリーの教授で、ピアニストのリアン・ノーブルは、これらの伝説的な巨匠ととも、それぞれの時代のスタイリッシュなピアニスト15人を選び、それぞれの経歴と代表曲の解説と写譜、ノーブル自身の模範演奏と、ピアノを除いたリズム・トラックを収録したCDからなる「Jazz Piano〜ジャズ・ピアノ・マスター達のスタイル考察〜」を著した。演奏者でなくても、ジャズ・ピアノに興味があれば、その進化の過程が一目瞭然で理解できる、なかなかの好著である。ニューヨークのライヴ・シーンで活躍するピアニストで、本書の翻訳者の三上クニも、かつてジャズ・ピアノを演奏し始めた頃、多くのピアニストの演奏をレコードで聴き、その中でファイヴァリット・プレイヤーを見つけ、ソロをコピーをして分析をして、自らのスタイルを築いてきた。このJazz Piano〜ジャズ・ピアノ・マスター達のスタイル考察〜 ではそれぞれの個性的なピアニストの演奏スタイルが著者の統一性を持った視点から比較されていて非常に判りやすく解説されおり、多くのピアニストの中からどの人を選んで聴いていったらよいのかに迷ってしまう初心者には格好の入門書と、推薦している。

ジャズ・ピアノ・マスター達のスタイル考察
Jazz Piano

 三上クニは、東京での音楽活動を経て1975年に渡米、ノーマン・シモンズ(p)と、バド・パウエル直系のピアニストで、ワークショップを主催し教育者としても知られるバリー・ハリスに師事、ビバップ・スタイルの薫陶を受け、ライオネル・ハンプトン・ビッグバンド、現在は三代目のポール・エリントン率いるデューク・エリントン・オーケストラや、自己のグループで活躍している。この日のギグの舞台で、現在はマンハッタン内で唯一の日系ホテルとなったThe Kitano New Yorkのバー・ラウンジは、昨年からリスニングをメインにした本格的なグループを、毎週火曜から金曜もしくは土曜というローテーションでブッキングを始め、ハロルド・メイバーン、ドン・フリードマン、バリー・ハリス、ジュニア・マンスといった大ヴェテランから、サイラス・チェストナット、エリック・リード、ジョー・ファーンズワース(ds)、エリック・アレキサンダー(ts)、レイチェル・Z、ジェイソン・リンドナーら中堅、若手が登場し、百々徹、早間美紀、山中千尋、白崎彩子らNYのシーンで活躍する日本人若手ピアニストも演奏した。三上はレギュラーで、ほぼ2ヶ月に1回のペースで出演している。
 高級ホテルのバーならでは、洗練された中のリラックスしたムードで、軽快なスウィング・ブルースとともにライヴは始まった。"You don't know what love is?"、"All of me"と耳に馴染んだスタンダード・チューンが続く。三上の軽快なタッチと、小粋なスイング、分かりやすい引用を多く使うエンターテインメントが、オーディエンスの顔に、微笑みを誘う。この日の脇を固めるのは、三上とともにエリントン・オーケストラのリズムを支えるブライス・セバスチャン(b)の重厚と、ジャッキ・バイアード(p)、クリフォード・ジョーダン(ts)、フランク・フォスター(ts)らとの共演を誇る大ベテラン、リチャード・アレン(ds)の軽快なブラッシュ・ワークとシンバル・レガート、歌心のツボは絶対にはずさないバイ・プレイヤー達だ。一音一音を慈しむようなバラード・プレイから、ダイナミックなアップテンポ・チューンまで、メロディとリズムが、万華鏡(カレイドスコープ)のように交錯する。ジャズを演奏する楽しさ、聴く楽しさにあふれた、気の置けない仲間のプライヴェート・セッションのようなカジュアル・トークであった。
 三上は語る。この教則本で色々なスタイルを学び、自分が弾きたいとイメージするピアニストのCDをさらに聴き込む。そして実際に自分でも演奏し、ライブのジャズも沢山聴くことが上達への道と思われる。もっとも大切なのは、より多くの生の演奏に触れる事だ。4/27から5/12まで、三上はヴォーカリストのステファニー・クラークをフィーチャーしての日本ツアーを行い、大阪では師匠のバリー・ハリスとのワークショップも、予定されている。(詳しくは http://www.atn-inc.jp/info.htm参照)是非、三上の演奏の中の、ジャズのエッセンスに触れてほしい。

ブライス・セバスチャン

 

 

関連リンク

三上クニ
http://www.kunimikami.com/

The Kitano New York
http://www.kitano.com/

リチャード・アレン

 

(3/17/2005 於The Kitano New York, NYC)