N.Y.ジャズ見聞録 



石川 政実

 

石 川 政 実 @ Blue Note NY

 

 ブルーノートNYの、日本人ミュージシャンをフィーチャーした日曜日のブランチ・ライヴ "East Meets West"も、好評のうち2年目になった。中堅から若手までNYジャズ・シーンで活躍するプレイヤー達が、レギュラー・グループやゲストを招いて出演し、意外な顔合わせや新たな発見があり、毎回楽しませてくれる。自らのトリオを率いて登場した、ATNの教則本の翻訳者の一人でもあるギタリスト/コンポーザーの石川政実を、リポートしよう。

 石川政実は、日本での大学時代に本格的にジャズ演奏を始めた。1990年、ニューヨークに渡ってニュー・スクール大ジャズ&コンテンポラリー・ミュージック科に留学し、ジム・ホール(g)、レジー・ワークマン(b)、ジョー・チェンバース(ds)、ジョン・バッシーリ(g)らに師事する。学内では、ブラッド・メルドー(p)、ラリー・ゴールディングス(p,org)、ピーター・バーンスタイン(g)、井上智(g)らとセッションを重ねる。同時期に、ニュー・スクール大ジャズ科のファウンダーでもある、アーニー・ローレンス(as,ss)・グループに起用され、イースト・ヴィレッジのディアナスを拠点に活動した。自己のグループでも55バーや、アングリー・スクワイア等に出演、独自のジャズ、ファンク、ブルースを融合したスタイルで、NYのローカル・シーンで注目される。1993年に帰国、鈴木“コルゲン”宏昌(p,kb)、山口真文(ts,ss)、水上信幸(b)らのグループで活動。自己のグループ、井上信平(fl)、岩瀬竜飛(ds)らとも首都圏のライヴ・ハウスを中心に演奏をした。
 2000年、再度ニューヨークに拠点を移し、ハーレム、アップタウンのクラブ・シーンで活動を再開する。ドクター・ロニー・スミス(org)、ジョーイ・デフランチェスコ(org)、井上陽介(b)、小山太郎(ds)らと共演。現在、ゴスペル・シンガー/ピアニストのL.D.フレイジァーのグループ、ロニー・ガスペリーニ(org)のグループで、セイント・ピータース教会のジャズ・ヴェスパー(ジャズ・ミュージシャンとその家族のための日曜ミサ)、ハーレムのオルガン・クラブ、ロビンズ・ネスト、アメリカン・リジョンポスト、アップタウンのクレオパトラス・ニードル、スモークなどを拠点に演奏している。自己のグループでは、ロニー・ガスペリーニを中心としたオルガン・ユニットで活躍している。ATNの近刊では、ギター・プライベート・レッスン・シリーズを手掛けている。シッド・ジェイコブスのジャズ・ギター ライン&フレーズの翻訳も著した。
 


高梨 学


 この日のブルーノートは、日曜日のマチネ・ライヴにもかかわらず客席は八分の入りで、なかなかの盛況だった。オリジナル曲を中心としたファースト・セットに続き、ウォーミング・アップも十分なセカンド・セットは、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」、ディズニー・メロディーの「フー・キャン・アイ・ターン・トゥー?」と小粋なスウィングで、リラックスしたブランチあとのレイト・アフタヌーンを演出する。トリオの一角、ベースの高梨学は、東京のセッション・シーンで活躍後、90年にNYに拠点を移し、ジャズ、ポップスと守備範囲の広いプレイヤーだ。ヴィクター・ジョーンズは、石川とアップタウンのジャズ・シーンで出会い、近年ステージを共にしているベテラン・ドラマーである。フレディ・ハバード(tp)から、チャカ・カーン(vo)、ゴンサロ・ルパルカバ(p)、ミッシェル・ペトロチアーニ(p)と、ジャズ、フュージョン、ソウル、ファンク、ワールド・ミュージックとジャンルを問わず、力強いグルーヴを叩き出している。

ヴィクター・ジョーンズ

 キャッチーなメロディ・センスが光るオリジナル・チューンの「フロリダ・サンセット」、石川の愛奏曲でスタンダードの「ニアネス・オブ・ユー」と、スロウ&メロウなバラードが続いた。骨太なギター・サウンドで、メロディを慈しむようにフレーズを歌う。美しい原曲の旋律に、新たな魂が宿る瞬間だ。石川とは高校時代からの共演を重ね、お互いの手の内を知り尽くす高梨が息の合ったバッキングをつけ、ジョーンズが繊細なシンバル・ワークで包み込む。高梨が、エレクトリック・ベースに持ち替える。ゆったりとした8ビートが心地よい「チェルシー・ブリッジ」だ。石川のソロと共に、サウンドのヴォルテージがあがり、このグループのポップな側面がクローズ・アップされる。ジョーンズの怒濤のドラミングが圧巻だ。その勢いを駆ってソウル・ジャズのスマッシュ・ヒット・チューン「アリゲーター・ブーガルー」へと、なだれ込む。ハーレムのクラブではお馴染みのレパートリーだ。石川の、速い音の立ち上がりと、たっぷりとした音符のフレージングから生み出される独特のグルーヴ・センスは、ファンキー・チューンで、より鮮明に浮かび上がる。極太の音色と、鉄壁のリズム感覚のパット・マルティーノ(g)や、ブルース・ギタリストのバディ・ガイらのソウルフルな系譜と、師事したジム・ホール(g)のハーモニー感覚の影響を消化して、石川はワン・アンド・オンリーなギター・スタイルを確立している。ワイルドなギター・ソロに触発されて、高梨はトレード・マークの激しいスラッピングを聴かせる。ジョーンズがカウベルを乱打してプッシュしながら、ドラム・ソロへと突入し、セカンド・セットのファイナルを迎えた。リラックスしたレイト・アフタヌーンは、ファンキー・サンディへと、豹変してしまった。石川政実のニューヨーク、東京のディープな・ジャズシーンでの長年の活動が、今、ネオ・ソウル・ジャズという芳醇な果実を実らせ、収穫の時を迎えようとしている。

(3/14/2004 於 Blue Note NY)

関連リンク

Blue Note NY
www.bluenote.net