N.Y.ジャズ見聞録 

ゴージャスなジャズ・サウンドとヒップ・ホップが交錯

ロイ・ハーグローヴ・ビッグバンド
フィーチャリング Q-Tip


ロイ・ハーグローヴ・ビッグバンド

Q-Tip (vo,rap)

 ニューヨークで、レギュラーに活動しているビッグバンドの二大勢力と言えば、ウィントン・マーサリス率いるジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラと、マリア・シュナイダー・オーケストラであろう。共に、現代ニューヨーク・ジャズ・シーンを象徴するビッグ・グループだが、その二つの牙城に迫る第3の勢力が、不定期の活動ながら強烈なインパクトをもつロイ・ハーグローヴ・ビッグバンドだ。ゲストに人気ラッパーのQ-Tipを迎えたスペシャル・コンサートの模様をリポートしたい。

 ロイ・ハーグローヴ(tp)が、弱冠17歳でデビューしたのは1987年のことだった。ポスト・ウィントン・マーサリス(tp)の神童といわれたが、トラディショナルなジャズの世界で、着実にキャリアを積み重ねた。1995年頃、当時のマネージャーで、現在ジャズ・ギャラリーを主宰するデイル・フィッツジェラルドにその野望を問われると、ハーグローヴは「自らのビッグバンドの結成。」と即答した。そして1995年8月に催かれたパナソニック・ヴィレッジ・ジャズ・フェスティヴァルのオープニング・アクト、ワシントン・スクエアでの野外コンサートで、ロイ・ハーグローヴ・ビッグバンドは華々しいデビューを飾った。以来、各地ジャズ・フェスティヴァルの出演や、ヴィレッジ・ヴァンガード、ジャズ・ギャラリーでのギグなど不定期ながら演奏をしていた。しばらくのブランクののち、この数年、アフリカ系アメリカ人の優秀な若手を中心に結集し再始動、新たな前進を始めた。ハーグローヴは、メイン・ソリストとしてでなく、多くのレパートリーの作曲・編曲を手がけ、その才能を遺憾なく発揮している。


デイル・フィッツジェラルド

 90年代半ばからハーグローヴは、ストレート・アヘッド・ジャズの活動と並行して、ディアンジェロ(vo,kb)、エリカ・バドゥ(vo)、コモン(vo,rap)、Q-Tip(vo,rap)ら、同世代のネオ・ソウル、ヒップホップ系のアーティストのアルバムやツアーに参加し、評価を高めてきた。2003年にヒップ・ホップ・オリエンテッドなニュー・グループ、"RH ファクター"を結成。前述の豪華ゲストを迎えたアルバム"ハード・グルーヴ"は、91年にこの世を去った帝王マイルス・デイヴィス(tp)が存命だったら、このようなストリート・ミュージックを創ったと思われる、ジャズにとどまらない総合的ブラック・ミュージックの傑作である。このアルバムのレコーディング・メンバーからQ-Tipが、今度はジャズにフィールドを移しての競演が実現したのが、この夜である。


ロイ・ハーグローヴ(tp)

 コンサートは、ニューヨーク州と市の文化芸術局のサポートを受けている、非営利団体ジャズ・ギャラリーと、ハーレム・ステージの共同プロデュースで、ハーレムの外れにある歴史的建造物に指定されているシアター、"ザ・ゲート・ハウス"で開催された。人気ラッパーの登場にチケットは2週間前にソールド・アウトし、ハーレム地域の人々の熱気の中、ジャズ・ギャラリーの主宰者デイル・フィッツジェラルドのイントロダクションで、ライヴは始まった。
 自らのリーダー・グループだけでなく、シット・イン(飛び入り)やジャム・セッションでも、派手なパフォーマンスで注目を集めてしまうロイ・ハーグローヴ。もちろんビッグバンドでも、トランペット陣がいる最後列に座っているわけはなく、ホーン・セクションの先頭に立ち、ぐいぐいと全体をリードしている。アップ・テンポのスウィング・チューンで、いきなりフル・スロットルの発進だ。ハーグローヴの熱いソロが、ブルース・ウィリアムス(as)、ヴィンセント・チャンドラー(tb)にも火をつけ疾走する。フリューゲル・ホーンを手に取り、続く曲はウォームなトーンで朗々と奏でるバラード「トラスト」だ。硬軟織り交ぜた展開で、オーディエンスが、コンピューターのうち込みでは絶対に創れない、ビッグバンドのゴージャスな音世界に魅せられた。


ロイ・ハーグローヴ(tp)

ヴィンセント・チャンドラー(tb)

ブルース・ウィリアムス(as)
 豪快なソリと、ドラムスのモンテス・コールマンとのソロ交換、トランペットほど饒舌でない、ご愛敬のハーグローヴのヴォーカルをフィーチャーした「セプテンバー・イン・ザ・レイン」に続き、バンドの歌姫レズリー・ハリソンが登場し、花を添える。そして、万雷の拍手に迎えられQ-Tipが現れる。ラップが、パーカッションの様にビッグバンドを鼓舞した。粘るようなアフリカン・アメリカン特有のリズムは、ヒップ・ホップとジャズの境界線を軽々と超える。バラード曲でも、Q-Tipのラップはストーリー・テラーとして、グループに違和感なく溶け込んだ。またRHファクターの拡大版とも言えるヒップ・ホップ・チューンでは本領を発揮し、会場はクラブのような興奮に包まれる。

モンテス・コールマン(ds)

ロイ・ハーグローヴ(vo)

ダイナ・ステファンズ(ts)&キース・ロフティス(ts)

アントーニ・ドライ(tp)&ダレン・バレット(tp)

 大きくうねるようなピークを作り上げてQ-Tipは退場し、ラテン・チューン「パブリック・アイ」になだれ込んだ。これまでスポットが当たらなかったメンバーが、次々にフロントに出てくる。トランペットのアントーニ・ドライと、ダレン・バレット、テナー・サックスのダイナ・ステファンズと、キース・ロフティスのバトル、バリトン・サックスのジェイソン・マーシャルはフルートでソロをとる。あまりに激しい勢いに圧倒され終わった後、ちょっとした間があいてから、拍手と歓声が鳴り響いた。19人のミュージシャンが誇らしげに退場する。しかし、観客は貪欲だ。大喝采はやまず、バンド・メンバーが、ロイ・ハーグローヴが、Q-Tipが、再びステージに現れた。キューバのチューチョ・ヴァルデス(p)がハーグローヴに贈った「マンボ・フォー・ロイ」だ。Q-Tipのアジテーションで、会場のテンションは最高潮にあがり、ターニャ・ダービィ(tp)、ジェラルド・クレイトン(p)のソロ、そしてコールマン(ds)とローランド・ゲレロ(per)の激しいリズムの応酬とともに、完全燃焼したライヴはやっと終わりの時を迎えた。
 2008年は、このビッグバンドでのレコーディングも企画されているそうだ。ニューヨーク・ビッグバンド・シーンの台風の目になる予感がする。


ジェイソン・マーシャル(bs)

ジェラルド・クレイトン(p)

ローランド・ゲレロ(per)

ターニャ・ダービィ(tp)

(11/30/2007 於The Gatehouse, NYC)




サウル・ルビン(gt)

関連ウェッブサイト

Roy Hargrobe myspace
http://www.myspace.com/RoyHargrove

The Jazz Gallery
http://www.jazzgallery.org/

Harlem Stage
http://www.harlemstage.org/

 


ダントン・ボラー(ba)
Set List
"Depth" "Trust" "September in the Rain" "The Lamp Is Low" "Requiem"
"Strasbourg" "Family" "Roy Allan" "Public Eye" "Mambo for Roy"

The Roy Hargrove Big Band with Special Guest, Q-Tip
Leader / Conductor: Roy Hargrove
- trumpet, flugelhorn, vocals
Special Guest: Q-Tip - vocals, rap

Rhythm Section:
Gerald Clayton - piano
Danton Boller - bass
Montez Coleman - drums
Saul Rubin - guitar
Roland Guerrero - percussion
Trumpets:
Darren Barrett
Tanya Darby
Antoine Drye
Trombones:
James Burton
Vincent Chandler
Max Seigel
Jonathan Valtzok
Saxophones:
Justin Robinson
(alto)
Bruce Williams
(alto)
Keith Loftis (tenor)
Dayna Stephens (tenor)
Jason Marshall (baritone)
Band Vocalist:
Lezlie Harrison