サウンド・メイクのための トップ・トーン・フォー・サクソフォン
定価2,160円(本体 2,000円+税)
著 : Sigurd M. Rascher (シガード・ラッシャー)
翻訳 : 佐藤 研司
監修 : -
金管楽器的にサクソフォンを鳴らしこむ!世界初の画期的な練習ブックが誕生した
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イージー・ジャズ・コンセプション クラリネット
著:Jim Snidero (ジム・スナイデロ)
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リズム・トレーニング
著:大久保 宙
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【日本語翻訳解説書付属】The Jazz Singer’s Handbook
著:Michele Weir(ミシェル・ウィアー)
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12キーで練習するジャズ・ライン
著:Steve Rawlins (スティーブ・ローリンズ)
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イージー・ジャズ・コンセプション テナー/ソプラノ・サックス
著:Jim Snidero (ジム・スナイデロ)
サクソフォンに興味をもつ楽器族なら、一度は目を通しておいてほしいのがこの1冊。自分で音程をつくらなければならない管楽器奏者にとって、最大の課題といわれるものはいくつかあります。そのなかでも「音域の拡大」は、管楽器の種類を問わず非常に高い関心をもたれる要素です。
ある一定の長さをもつ管体の一方の端で振動を発生させれば、その管体のなかの空気が共振して「音」が生まれます。その「音」は倍音を多く含んでおり、じっくり注意深く聞けばいろいろな音が聞こえてきます。金管楽器の場合は、その第一次倍音を「ペダルトーン」として、そこから倍音をつみあげる練習法(ペダルトーンを「ド」とすると、低いほうから順に「ドドソドミソシ♭ド…」という感じで倍音が鳴ります)を基礎練習のひとつにとりいれられています。ヴァルヴもしくはスライドなどの装置をつかわない状態でも、さまざまな「倍音」が出る様子は、楽器の構造を知らない人には手品みたいにみえるにちがいありません。
葦の切片を加工したリードを振動させるタイプの木管楽器の場合も、原理的には同じような「手品」が可能です。原理的には「管の長さを変更して倍音系列を変更」することにより管楽器はさまざまな「音」を出しているのです。3本のヴァルヴをつかう現代の金管楽器の多くは、まったく押さない状態を含めて7つのヴァルヴの組み合わせを、スライドをつかうトロンボーンの場合は通常7つのポジションを、そしてたくさんのキーをもつ木管楽器の場合はそのキーをつかって管の長さを変更し、さまざまな音を出すのです。その原動力となっているのがこれらの「倍音」なのです。そして「音域の拡大」とは、より高次の倍音をうまく使うことにより、自分が自由に使える音を増やす、ということに他なりません。「高い音を出すこと」を単に体操競技のように考える向きもありますが、こういった訓練の狙いは「より広大な表現領域の獲得」であり、それは「より自由度の高い表現力の獲得」に他なりません。
ただし、先述のように基礎練習のなかにすでに倍音の練習が「織り込み済み」の金管楽器に対して、木管楽器の場合にはこの種の倍音の練習はまだ未開拓の分野のようです。本書は、おそらく私が知る限りでこの分野をたくましく切り開いた革命的な1冊です。
著者シグルド・ラッシャー(Sigurd M.Rascher 1907-2001)は、ドイツ・シュトゥットガルト音楽院でクラリネットを学び、のちにサクソフォンに転向しました。サクソフォンの開発者であるアドルフ・サックスの実娘から「父が意図したとおりの音色で演奏している」とお墨付きをもらった腕前は、録音も残されておらず確認できませんが、本書を一読すれば著者自身がいかにこの新開発の楽器に習熟し、その奥義に通じていたかを感じ取ることができます。
本書は、いってみれば金管楽器のロングトーンや倍音練習をサクソフォンに適用することにより、音質の練り上げと音域の拡大を図ろう、という、前代未聞の快著です。音域の拡大は「結果」に過ぎず、倍音を鳴らすことに習熟することで音質を磨き、その副次的効果で音域が拡大する…という図式が、著者が考える理想的練習法なのです。
執筆者:榎本 孝一郎
~榎本 孝一郎 プロフィール~
1958年東京生まれ。中学時代からアルトホーン(のちにユーフォニアムやコルネット、トランペットに転向)で音楽に親しむ。音楽之友社に24年勤続ののち独立し、現在は管楽器のための季刊誌 「楽器族。ブラストライブ」 編集長。アダム・ラッパをはじめ、国内外の管楽器プレイヤーへのインタビューや楽器メーカーへの取材を通じ、ひとりでも多くの楽器族(「ブラストライブ」誌ではプロアマを問わず、楽器を愛する人をそう呼びます)の「楽器魂」に火をつけることをミッションとしている。