
イージー・ジャズ・コンセプション クラリネット
定価3,240円(本体 3,000円+税)
著 : Jim Snidero (ジム・スナイデロ)
翻訳 : 愛川 篤人
監修 : 佐藤研司
「伴奏トラックの内容をすべて覚えるくらい聴きこむべし」と、指導しています
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リズム・トレーニング
著:大久保 宙
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【日本語翻訳解説書付属】The Jazz Singer’s Handbook
著:Michele Weir(ミシェル・ウィアー)
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12キーで練習するジャズ・ライン
著:Steve Rawlins (スティーブ・ローリンズ)
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イージー・ジャズ・コンセプション テナー/ソプラノ・サックス
著:Jim Snidero (ジム・スナイデロ)
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イージー・ジャズ・コンセプション・シリーズ
著:Jim Snidero (ジム・スナイデロ)
「ジャズ・コンセプション / スタディー・ガイド クラリネット」が出版されて以来、私は20年にわたりレッスン・テキストとして、そして自分のトレーニング用に愛用してきました。そして続編として出版された「インターミディエイト・ジャズ・コンセプション / スタディー・ガイド クラリネット」と「イージー・ジャズ・コンセプション クラリネット」は、「ジャズ・コンセプション」のハイクオリティな内容を初級~中級のレベルでも体験できる理想的な教材です。
このシリーズを通して私が気に入っていることは、新しすぎず古すぎないオーソドックスな作曲、短期間でジャズの様々なイディオムやシーンを学べる編集、そして記譜やアーティキュレーション記号の使い方が極めてシステマティックな点です。
さて、「イージー・ジャズ・コンセプション」にスポットを当ててお話ししましょう。 このテキストでは、どの曲もシンプルかつオーソドックスかつチャーミングにできていて、最後まで飽きずに取り組むことができます。音数が少なめなのは初級者に対する配慮なのでしょうが、結果としてジャズのフレージングで最も大切な、タイム(音を置くタイミング)としっかりと間(ま)を取ることに集中することができます。「インターミディエイト」や「ジャズ・コンセプション」を終えた人にも、あらためて取り組む価値のある素材と言えます。
ジャズの学習においては、早い時期から上質のリズムセクション(できればプロのミュージシャンの)とアンサンブルをすることが望ましいのですが、それは学校でも音楽教室でもなかなかかなわないことです。しかしこのシリーズでは世界最高峰のリズムセクションと一緒に演奏することができます。中級用であっても初級用であっても隅々まで手を抜かずにていねいにスウィングしてみせるトリオの仕事ぶりには全く惚れ惚れします。結果これはリスニング教材としても秀逸なアイテムとなり、私は生徒たちに、伴奏トラックのトリオがやっている内容を全て覚えるくらい聴き込むように指導しています。また、下記のような点を、演奏を繰り返し聴きながら話し合います。
(1)ピアノがフロントのフレージングに対してどのようなタイミングでどんな内容のコンピングを入れているのか?
(2)ベースが2フィールからウォーキングへ変わるのはどのような時か?
(3)ベース・ラインの音域によってどのようにシーンが演出されているか?
(4)ドラムスのスティックとブラシの持ち替えのタイミングと意味は?
(5)ドラムスがフロントのフレーズのメロディック・リズムにアクセントを合わせている時と合わせてない時の違いは?
これらはアンサンブルのリーダーとなる機会が多いフロントプレイヤーにとって、非常に重要な学習であると考えます。
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初見力アップのトレーニングにも最適
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もう一つ私のおすすめの利用法として、初見力アップのトレーニングがあります。初見のトレーニングには、模範演奏のトラックを使ってそれとユニゾンするように練習します。初見力をつけるには、ゆっくりと拍を数えながら読むよりも、正解のプレイと一緒に何度も繰り返し演奏することが有効だからです。この際、できるだけ読み直しや指をさらったりすることなく、ごまかしながらで構わないのでただひたすら模範演奏との演奏を繰り返すように指導しています。 私の初見力は、失敗の許されない仕事の現場で先輩ミュージシャンの横で吹くことによって鍛えられました。それをシミュレーションするのに、この教材はうってつけです。
プロの演奏家を夢見ている学生たちには、「イージー・ジャズ・コンセプション」の全曲をミスなく初見演奏できるか否かが、プロとしての読譜能力の最低ハードルであるとイメージさせています。 クラリネットは管楽器の中でも比較的通常使用できる音域が広いために、かえって楽譜に指示される演奏レンジが好ましくない状況になりがちですが、「イージー・ジャズ・コンセプション」はシリーズの中でもとくにレンジの吟味が良いと思います。どの曲も無理のない、ソロで最も使用頻度の高いレンジがうまく選ばれており、スウィングしながら良い音のイメージづくりをすることができます。またサックス奏者の持ち替えトレーニングとしても、ストレスなく音楽に集中できることでしょう。
クラリネットは他の管楽器よりもスウィング、ディキシーなどのトラディショナルな方面をカバーする機会が多いパートですが、私はジャズ学習のスタート地点はビバップに置くのが効率が良いと感じています。そこから古い方へ進むか新しい方へ進むかは、のちにプレイヤー自身が決めればよいと思います。まずはひたすら「イージー・ジャズ・コンセプション」を繰り返して、新旧のイディオムがバランスしたジャズ語のフィーリングをしっかり身につけましょう。それによって様々なスタイルに対する高い順応性が育まれるはずです。
執筆者:谷口英治
~谷口英治 プロフィール~
クラリネット奏者、作・編曲家。日本を代表するジャズ・クラリネット奏者のひとり。本邦モダンスウィングシーンの旗手的な存在。自己のバンドを率いての公演のほかソリストとしての客演やスタジオレコーディングの機会も多い。またジャズ教育にも熱心で、洗足学園音楽大学をはじめ様々なプロジェクトで後進の指導にあたる。